Case3-28 少女

「え…? ちょっと待ってよ……」


 事実を受け止めきれず、そんな言葉が口からこぼれた。


「え 待って嘘でしょ?」


 すーちゃんは見るからに取り乱していた。

 たった今、なんとも重たいダンボール箱を抱えて、先ほどの男性職員含む数人を連れて帰ってきたところだったのだが、

 いないのだ。そこで待っているはずの少女が。

 反射的に、何かしなくてはと思った。すーちゃんは、すぐさま箱を置いて、少女が立っていた場所に立つ。

 しかしそうしたところで、何か変わることがあるはずも無い。少女が、おそらく母を探しに消えてしまったというの事実のみが、自身の喉元により残酷に突きつけられただけであった。

 鼓動がはやる――…でも混乱している場合ではない。すーちゃんは、なんとか強引に心を切り替えると、とにかく首を動かし、辺りを見回し始めた。


「レナちゃん!! レナちゃーん!!」


 気づいてほしい。そう願って声を飛ばす。

 状況を察した部下の職員達も、一人また一人とそれに参加していく。


「レナちゃーん! どこー!?」


 しかし……


「返事してー!!」


 しかしだ……。


「…レナちゃーん!」


 それを続けようとするほどに、すーちゃんの声は乏しくなっていった。わかってしまった――今自分がやっていることの虚しさに。


「レナちゃん……」


 やがて、少女を呼ぶ声の中から、すーちゃんの声はなくなってしまった。

 当然の事だ。こちらを振り向くのは、いつまで経っても、自分と同じ白衣の大人達ばかり……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る