Case3-25 少女

 廊下からホールへの入り口に差し掛かる二人。

 すると、それに気がついた白衣をまとった女性が一人、こちらへと小走りでやってくる。

 女性職員が手を差し伸べると、少女もまたそれに応える形でその手を握った。


「それじゃあ、あと頼むね」

「はい」


 警備員のおじさんは女性職員に少女を預けると、避難誘導音声を繰り返している警備用マシンのもとへと足早に去って行った。


「よし! レナちゃん外行くよ外」


 女性職員はそのまま少女の手をひっぱり研究所玄関へ。


「すーちゃんこれどうしたの?」


 少女は、女性職員のことを『すーちゃん』と呼んでいた。母からそう紹介され、すーちゃんもまた少女にそう自己紹介したからだ。彼女は母の同僚で、同時に研究所で母と最も親しい友人だ。母がどうしても研究で手が離せない時、少女の世話を買って出てくれたのは他でもないこのすーちゃんであった。そんな彼女に、少女は研究所で何があったのか、真っ直ぐな疑問を投げかけた。


「う~ん…」


 一瞬、すーちゃんは言葉を詰まらせかけたが、そんなことが気にならないほど、ぐに続きを喋りだす。


「ちょっとだけ危ないことが起きちゃったから、一旦みんなで? 外に出てるんだよ」


 と、何を探すでもなく辺りを見渡しながら、そう答えた。

 この時、彼女はなるべく少女を不安にさせない為、いつもの声の調子で喋ることを意識していた。

 ただ少女は、親戚同然に自分を可愛がってくれている母の友人が隠そうとしている、何か焦りのようなものを確かに感じ取った。

 いつだってどんな時も、大事な話をする時は少女としっかり目を合わせる。すーちゃんはそういう人だからだ。


「お母さんは?」


 純粋に会いたい気持ちからくる疑問……でもそれだけじゃない。この一言にはよぎった不安もくっついている。


「大丈夫。後で会えるからね。お母さんの仕事場は反対側だから、反対の出口から出てるはずだから」


 答え出たのは、少女を安心させる言葉……だがやはり、すーちゃんは目を合わせて言ってはくれなかった。

 玄関外一点を見つめて口から出したその言葉は、まるでどこか、自分にも言い聞かせているようだった……。

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