Case3-12 少女

 夜中にふとトイレに行きたくなったこと。暗がりの中一人で向かったこと。少女は一つ一つを思い出しながら、出来事を紡ぎ伝えていった。しかし途中で少女は急に言葉を失う。すると、今度はみるみるうちに顔がくしゃくしゃになっていって、とうとうワっと泣き出してしまった。気づいたのだ。今こうしているうちにも自分の命が終わろうとしていることに。

 突然のことで驚き慌てる母に、蛇の毒を受けたことを必死に訴えかける少女。苦しみたくない。死にたくない。ただその一心で助けをう。そうなってしまうと、今この純粋な幼子を冷静にさせる手段は一つもなかった。

 通話を終え、何事かと駆け寄った祖父が、いくらと説明しようと、少女は聞き入れることをせず、自分はもうじき死ぬのだと、それを繰り返し訴えかけることで精一杯なのであった……。

 祖父いわく、蛇の名前はアオダイショウ。無毒の種だ。

 少女が心から落ち着きを取り戻したのは、病院の先生から「死なないよ」という言葉を受け取ったあと、その言葉を飲み込むことができた帰りの車の中であった。

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