Case3-3 少女

 そういう素敵な時間ほど、過ぎていくのはあっという間なのだと、少女はなんとなく知っていた。

 気の無垢むくのままに遊ぶ。その片手間に祖父のお仕事を手伝ってみたり、時折ときおり出会う初めましての生き物達に挨拶を交わしたり。そんなことをしている内に、もう帰るよと母と祖母の迎えが来てしまう。

 帰りの途中では、母の”じゅけん”を支えたという神社に立ち寄った。参拝の沈黙の合間に、ひみひみひみひみ――と、聞いたことのない虫の音が聞こえてきた。祖母曰く、ひぐらしという蝉の一種だそうだ。これも初めましてだ。

 到着した祖父母の家は、少女にとって実に興味深い構造をしていた。長年による老朽と時代の変化に沿ってリフォーム・リノベーションを繰り返しており、元々は大半が和室だった内装が、現在は洋室に数を越されていて、その中でV-リングに適応したワイヤレス家電製品が最低限そろえられている。和室の壁にはなんと、今時都会ではまず見られないコンセント口まで残っていた。まだ使えるらしい。と、いうように、過去と現在が混ぜこぜになったような、そんな不思議な空間となっていた。

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