Case1 矢上藤次郎

 先刻から所内で鳴り響いている警報なぞ尻目に、男達は万全の武装を構え、青白く照らされた無機質な廊下を迷いなく進んでいく――。

 メインウェポンに帯電弾丸たいでんだんがんアサルトライフルをたずさえ、ただでさえゴツついた自らの体躯たいくを、その真っ黒に染まったフルボディアーマーとバイザーヘルメットによって固めた六人の男達。

 当たり前のように組まれた隊列、統率のとれた迅速な行動……彼らがシロウトではないことは明らかであった。


 『Nエヌ-GETゲット特別警備部隊とくべつけいびぶたい

 それが彼らが所属する部隊の呼称である。


 そのメンバーは警察組織内から集められた、より確かなキャリアを持つ者達で構成され、全三十人いる隊員の中には、警察特殊部隊・通称『SAT』より招集しょうしゅうされた者も複数人存在する。

 素人と比べること自体が失礼に値するエリート部隊であった。

 彼らの任務、それは、

【国立研究開発法人『Nエヌ-GETゲット』を警備対象とし, N-GET研究所にて滞在. 有事の際における既存配備きそんはいびの民間警備会社との協力・連携および研究所関係者の人命救助・保護】

というものである。


 しかし、しかしながら、

 今現在行動中の彼ら六人からは、救助や保護といった言葉の印象は、全くもって見受けられなかった。

 彼らはできる限り自身の身体を防護する衣鎧いがいまとい、明確に命を奪うことができる武器を所持している。まるで、これから戦闘にでもおもむくかのようであった。


 では、

 それはなぜか。

 先述の任務は、であったからだ。






 ――今もなお鳴り響き続ける警報。これは通常の有事に流れるものではない。

 この、脳にまで響いてくるような警報。

 この警報は、ひとけることわりを超える、異常なる異常事態を知らせるためのものである。


【対象被験体F, Mによる暴走・反乱・脱走行為の際における, 対象の無力化・拘束もしくは殺処分.】


 それこそが、彼らに与えられた本来の最優先任務であった。

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