ビビビッテル? ーアヤカシパンクー

大羽ひつじ

Part0 アヤカシパンク

アヤカシパンク

 フェードイン。聞こえてくる警告音。ヴィー‼ ヴィー‼ ヴィー‼って感じに、鼓膜通りこして脳にまで響いてきそうな、緊張誘う嫌ーなやつ。

 原因は、『第零だいぜろセントラルラボ』と記された、そのいかにも堅牢で分厚そうな自動開閉式の鉄扉てっぴの向こうで起きているだ。


 鉄扉てっぴについてだが、事実これは堅牢で分厚いものであった。紙ペラ一枚だって通す隙間なくビタリと閉ざされ、超硬合金ちょうこうごうきん製の金具でロックが掛かっている。要は、あらゆる問題を想定して設計されており、滅多なことが起きない限り、この鉄扉をどうこうするなんてことは不可能なのである。


 ラボの内部から注がれた凄まじい衝撃に鉄扉がガクガクと震える……うん、ちょっと滅多なこと起きてるかもしれない。

 続けざまに注がれたむごいほどの衝撃に鉄扉がボコっとゆがむ……うん、ちょっとあらゆる想定超えているかもしれない。

 プラスであと数回ほど、えげつない衝撃が鉄扉に加えられる。


 合計で十回にも届いていない。たったそれだけである。たったそれだけで、国内でもトップクラスで頑丈に造られた扉は、ボコボコに変形させられてしまっていた。

 ラストの一回、とびきりでデカいやつ。そいつを受けて、とうとう鉄扉のど真ん中が吹っ飛んだ。


 見るも無惨に開いた大穴。そこから見えるラボ内は、電灯設備もやられたのか、真っ暗闇一色であった。

 ただ、よぉく注意して目を凝らしてみれば、ギリギリではあるが視認することができる。何かが空中で動いている。それも、思ったよりもずっと穴の近くで。


 次の瞬間、ビカビカビカっと七色のフラッシュが起こる。そして、ラボ内からが一斉に飛び出してきた。

 色はとりどり、あやしくあやしき輝きを放つ、計十五の宝石達。

 魚の群れのように、施設内を縦横無尽に舞い泳ぎ、宝石達は迷わずにある場所へと向かっていく。

 角を曲がったところで、『第零だいぜろ倉庫室』の扉が見えてきた。それを確認するや、宝石達は加速を始める。どうやらそこがゴールのようだ。

 引かれ合う磁石のように、彼らは合体してまとまっていき、一つの大きなかたまりになる。エネルギーが満ち、勢いと輝きを増して、そのまま倉庫室に突っ込んでいく。これだ。この攻撃が鉄扉を破壊したのだ。

 倉庫室の扉ごとき、発砲スチロールも同然であった。一撃でぶち破り、宝石達はあっさりと倉庫室への侵入に成功した。


 群れに戻り、宝石達は庫内の奥へ。

 倉庫室という名だけあって、室内には様々なぶつが保管・収納されていた。


冷蔵保存された薬品類、実験器具に機械のパーツや、『ボツBOX』に押し込まれた大量の設計図、


それとコンピュータデバイスの予備、研究用にカスタマイズされた【Vブイ-リング】と呼ばれる携帯端末の予備、


あとは、工具掃除用具キープアウトテープ簡易ベッドサーキュレータ―電子レンジシャワーヘッド全自動爪切りetc.といった、研究以外で使えそうなものもしくは使えないもの。そして、


ずらりと並んだ等身大の機巧人形きこうにんぎょう


 最新型の筋電義肢きんでんぎしを看板商品としている、ブルーゼペット社から提供されたものだ。軽量金属をベース素材として、骨格・筋肉動作の構造が緻密に再現されている。それを覆う肌の部分もまた、外見・質感ともに本物にんげんと差はなく、その気になって観察しなければ、区別のつかない仕上がりとなっている。ただし電動ユニットは存在していない。あくまで素材と構造だけ使用して製造された、動くことのない特注品である。

 そんな、鉄のマネキンこそが、宝石達の目的であった。


 我先にと、宝石達が次々に機巧人形きこうにんぎょうとの接触を始め、融合していく。いや、彼らの性質上、「取り憑く」と表現したほうが正しいかもしれない。

 宝石の輝きが人形にまで伝染していくのがわかる。


 明かりの点いていないはずの倉庫内は、もはや彼らの放つ光によって極彩ごくさいに包まれた。陳腐ちんぷなナイトクラブなんてブッ飛ばすほど、ザワザワと心惹きつける雅鮮みやびあざやかな世界がそこに広がっている。だったら、この世ならざる何かが起こったって、なんにも不思議なことなんてない。


 宝石と人形は完全に一つになった。始まる。


 動くはずのない四肢が動きだす。

 金属部位は分解され、新たに肉がみ込まれる。それを毛皮で隠し、鱗がおおう。翼に嵐をまとわせて、くすぶる牙をき出して、いわくの角が生えそろう。面をかぶり、しょくし、誇り高くいなないて、二の数を超えたまぶたを開く。

 ―――今ここに、十四体のアヤカシ共が顕現けんげんした。

 本能か理性、好きなほうを選択して、それぞれが行動を開始する。




 警告音はいまだに鳴り続けている。これから起こる惨事を考えると、もう少し音量上げたり、もっと怖い音に変えたりしたほうがいいかもしれない。


 倉庫内にはまだ一体だけアヤカシが残っていた。どうやらそいつは理性を選んだようで、冷静にもこの状況に考えを巡らせていた。

 結果、高笑いした。

 自分らが巻き込まれたこの事態が、面白おかしくってたまらない。そんな様子だ。

 ひとしきり笑い終えて、そのアヤカシはフゥーっとため息をつき、己の高揚する気持ちを落ち着かせる。


「ここまでくると、もはや別もんだな。のう、世界よ」


 物珍し気に倉庫内を見渡したあと、アヤカシは転がっていたリクライニングチェアを起こし、どっかりとそれに座りこんで頬杖をついた。


「まさか、二度と戻ることはできまいと思っていたのだがな。はてさて、」


 ギラギラと、げに恐ろしげな笑みが浮かび上がる。


「どう奪い取ってくれようか」

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