行列―8
*
場所を、夜の浅草寺の本堂に移した。捕まえた巌と、催眠の解けた他の本殿の役員たちが集まっていた。大柄の男性が鬼、すらりと背の高い女性が天狗、小柄でにこにことしている少年が河童、赤い着物の少女が座敷童子、と簡単に紹介を受けた。
黄昏座の代表としては、琥珀、寧々、あさぎが立ち会った。
「助かった。本当にありがとう」
「催眠状態にあったとはいえ、本殿の役員として情けない限りだわ」
役員たちから、それぞれ感謝を伝えられ、少しくすぐたかった。だが今はそれよりも口を塞がれ、後ろ手で拘束されている、巌の方が気になって仕方がなかった。
「あの、この人はどうするんですか」
「ぼくらが責任を持って、彼を牢へと送り込む。二度と表を歩くことは出来ないだろう」
「もし、言いたいことがあるのなら、今のうちに」
あさぎたちは、巌へと視線を向ける。口を塞いでいた布がわずかに緩み、巌は噛みつくような口調で言った。
「好きなだけ殴るがいいさ、この下級どもが――むぐっ」
その途中で、座敷童子が無表情に布を巻きなおしていた。琥珀は、拳を固く握りしめて巌を睨み付けていた。そのまま、一歩、また一歩と巌に近付いていく。
「琥珀……」
「殴らない」
ぽつりとそう言った。琥珀は冷え切った目で巌を見下ろして、続けた。
「足りるはずがないだろう、殴るだけで。俺も寧々さんも、花音も雪音も、凪も佐奈さんも、そしてあさぎも。俺たちが知らないだけでもっとたくさんの人が苦しんだんだ。お前のせいで。殴られたのだから清算なんて、勝手に勘違いされても困る。この先、一生、全てを失って無の中にいるがいい」
巌は、口を塞がれているから、ではなく本当に声が出ないようだった。怯えた目をしていた。冷え切った憎悪をぶつけられて、まともに声が出るはずもない。琥珀は、自分だけでなく、黄昏座の皆、妖の皆の怒りを全て込めて言葉をぶつけたのだ。感情を乗せて話す役者の声に、素人が敵うはずがない。
蘭巌は、鬼の手によって本殿の外に連れて行かれた。もう、二度と会うことはないだろう。
あさぎたちの元に戻ってきた琥珀は、力が抜けたように微笑んだ。怒りを相手にぶつけることにも気力を使う。だが、琥珀はどこかすっきりしたようにも見えた。
「黄昏座、噂には聞いていた。君たちは、本当に階級を上げることに成功し、それだけでなく百鬼夜行による妖消滅の危機をも救ってくれた」
「妖を代表して礼を言う。ありがとう」
「ありがとう」
本殿の面々に深々と頭を下げられて、寧々もあさぎも慌ててしまい、同じように頭を下げた。琥珀も、ゆっくりと頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございます」
本殿に、黄昏座のことを認めさせる。魁と琥珀の夢が、本当の意味で今やっと叶ったのだ。顔を上げたあさぎと琥珀、寧々は、お互いに視線を交わして、笑い合った。本当に、良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます