行列―8


 場所を、夜の浅草寺の本堂に移した。捕まえた巌と、催眠の解けた他の本殿の役員たちが集まっていた。大柄の男性が鬼、すらりと背の高い女性が天狗、小柄でにこにことしている少年が河童、赤い着物の少女が座敷童子、と簡単に紹介を受けた。


 黄昏座の代表としては、琥珀、寧々、あさぎが立ち会った。


「助かった。本当にありがとう」

「催眠状態にあったとはいえ、本殿の役員として情けない限りだわ」


 役員たちから、それぞれ感謝を伝えられ、少しくすぐたかった。だが今はそれよりも口を塞がれ、後ろ手で拘束されている、巌の方が気になって仕方がなかった。


「あの、この人はどうするんですか」

「ぼくらが責任を持って、彼を牢へと送り込む。二度と表を歩くことは出来ないだろう」

「もし、言いたいことがあるのなら、今のうちに」

 あさぎたちは、巌へと視線を向ける。口を塞いでいた布がわずかに緩み、巌は噛みつくような口調で言った。


「好きなだけ殴るがいいさ、この下級どもが――むぐっ」

 その途中で、座敷童子が無表情に布を巻きなおしていた。琥珀は、拳を固く握りしめて巌を睨み付けていた。そのまま、一歩、また一歩と巌に近付いていく。


「琥珀……」

「殴らない」

 ぽつりとそう言った。琥珀は冷え切った目で巌を見下ろして、続けた。


「足りるはずがないだろう、殴るだけで。俺も寧々さんも、花音も雪音も、凪も佐奈さんも、そしてあさぎも。俺たちが知らないだけでもっとたくさんの人が苦しんだんだ。お前のせいで。殴られたのだから清算なんて、勝手に勘違いされても困る。この先、一生、全てを失って無の中にいるがいい」


 巌は、口を塞がれているから、ではなく本当に声が出ないようだった。怯えた目をしていた。冷え切った憎悪をぶつけられて、まともに声が出るはずもない。琥珀は、自分だけでなく、黄昏座の皆、妖の皆の怒りを全て込めて言葉をぶつけたのだ。感情を乗せて話す役者の声に、素人が敵うはずがない。


 蘭巌は、鬼の手によって本殿の外に連れて行かれた。もう、二度と会うことはないだろう。

 あさぎたちの元に戻ってきた琥珀は、力が抜けたように微笑んだ。怒りを相手にぶつけることにも気力を使う。だが、琥珀はどこかすっきりしたようにも見えた。


「黄昏座、噂には聞いていた。君たちは、本当に階級を上げることに成功し、それだけでなく百鬼夜行による妖消滅の危機をも救ってくれた」

「妖を代表して礼を言う。ありがとう」

「ありがとう」


 本殿の面々に深々と頭を下げられて、寧々もあさぎも慌ててしまい、同じように頭を下げた。琥珀も、ゆっくりと頭を下げる。


「こちらこそ、ありがとうございます」


 本殿に、黄昏座のことを認めさせる。魁と琥珀の夢が、本当の意味で今やっと叶ったのだ。顔を上げたあさぎと琥珀、寧々は、お互いに視線を交わして、笑い合った。本当に、良かった。

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