行列―4


 それから、黄昏座の全員で百鬼夜行について調べ始めた。聞き込みをしたり、過去の草子を探ってみたり。あさぎは、聞き込みをしつつ、あちこち色んなところを歩くようにと言われた。見聞きしたことを記憶出来るということは、全てが手掛かりとなり得るからだ。ただし、必ず誰かと一緒に行動するように、とも言われた。

 今日は雪音と一緒だった。


「座長は、心配性ですね。気持ちは分からなくはないですが」

「雪音くんも、私が危なっかしいと思ってる?」

「間者だと分かっているのにわざわざついていくなんて、普通しませんからね」

「それは……ごめんなさい」

 雪音は小さく笑ったが、ふいに真剣な顔になった。


「話を聞く限り、人魚の当主はあさぎを原因と思い込んで殺そうとしたわけですから、今も危険なことには変わりないんです。気を付けてください」

「はい、気を付ける」


 雪音と聞き込みをして回ったが、特に収穫もなかった。浅草寺へ戻る道で仲見世を通った時、雪音は髪飾りを売っている店で足を止めた。琥珀に睡蓮の髪飾りを買ってもらったところだ。


「今、付けている髪飾り、欠けていますよね。新しいの買っていきますか?」

「ううん。これがいいから」

「――座長にもらったからですか」

「えっと、うん。花音ちゃんから聞いたの?」

「見ていれば分かりますよ」


 雪音は、そう言うと店から離れて再び歩き始めた。あさぎは、その後を追いかける。雪音は歩く速度を落として、あさぎの顔を覗き込んできた。


「座長に想いは伝えないんですか」

「えっ」


 急に言われて、きっと顔が赤くなっている。雪音はそっと微笑んでそれを見ている。何も言わないが、どうなのかと目線で問うてきている。


「このことが解決したら、ね」

「そうですか。応援しています」


 鎮護堂に着いて、あさぎと雪音は先に帰っていた座員へ報告をした。

 皆、情報を掴めていないようだ。




 聞き込みを初めて約一週間後、十二月十七日、ようやく詳細を掴むことが出来た。

「まとめると、百鬼夜行とは、本殿の権限を使って、夜にたくさんの妖たちを妖姿で東京の街を闊歩させるというもの。蘭巌は、人間が妖の姿を見れば畏怖を抱き、また元の江戸のような時代に戻ると考えている、か」


 琥珀が、皆が持ち寄った情報をまとめてくれた。思っていた以上に規模の大きいことのようだ。本殿の命令ならば、多くの妖がそれに従うだろう。


「そんな馬鹿なことをしようとしてるん!? 東京の夜はもう暗くないんよ。アーク灯だってあって、妖が本来の姿で歩けるような場所やない。ましてや畏怖を抱かせるなんて無理や」

「寧々さんの言う通りだ。これで、本物の妖を見て、人間が偽物だ、嘘だ、存在しないと多くの人が思ってしまったら、周知の回復どころか、一夜にして妖の多くが消えることになる」


 周知が急激に下がってしまえば、階級が下がる。丁族だけでなく、他の階級の妖だって危険に晒される。


「絶対、百鬼夜行を止めなくちゃ」

 あさぎの決意に、皆が力強く頷いた。黄昏座で、妖たちを守るのだ。


「それで、百鬼夜行がいつ行われるのか、掴んだやつはいるか」

 琥珀に聞かれて、花音と寧々が手を上げた。だが、その顔は得意げではなく、なぜか困惑したもの。


「どうした?」

「それが……十一月八日、だと聞きましたの」

「あたしもそう聞いたんよ」


 十一月八日、とっくに過ぎている日付だ。その日は確か、あさぎが花音の代わりに舞台に立った日だ。そんな大規模なことが行われていた覚えはない。あればさすがに気が付くはずだ。


「姉さんたちの聞き間違いじゃないんですか」

「でも、わたくしと寧々さん、別の人に聞きましたのよ」

 あさぎは、必死に記憶を遡った。あの火事の時、巌はなんと言っていたか。百鬼夜行について、なんと。


「――百鬼夜行の準備を進めねばならん、もうそこまで迫っておる」

「え?」

「あの男は、そう言ってた。百鬼夜行は、もうすぐだって」

「……一体、どういうことだ」

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