行列―5


 蘭巌は、上機嫌であった。今日は百鬼夜行の決行当日。陽はすっかり沈み、夜、つまり妖の時間だ。本殿の命令によって集結した妖たちの行列はすでに歩き始めた。もう誰にも止めることは出来ない。


「ようやくここまで来た」


 上に立つことだけを教え込まれ、そうしてきた。当然のように蘭家の当主になり、権力を手にしたが、まだ足りない。永遠に乾いたまま、満たされることがない。本殿の役員になったが、足りない。ならば、本殿の力を全て自分のものにしようと決めた。混ざり子が生まれるなどという誤算もあったが、まあまあ駒として使えた。あの邪魔な芝居小屋を潰せたのだから。


 この行列には、階級によって差を付けた。甲族は神輿に乗せ、下級のものに担がせて、練り歩く。階級をはっきりさせ、下の者が上の者に従う環境を強化する。本殿の名で通達を出せば、これが何かも理解しないままたくさんの妖たちが出てきた。


「ほら、行け」


 巌の乗った神輿が動き出した。いくつか用意した神輿の中でも、巌の乗る神輿は、どれよりも豪華なものだ。朱色で仕上げた柱に、金箔を使用した屋根、権威の象徴となるだろう。恐れおののき、ひれ伏す人間や下級の妖たちを見るのが、巌は楽しみだった。


「な、なんじゃ、どういうことじゃ!?」


 行列を見る人間たちは、皆が笑顔で楽しそうだ。こちらに手を振ってくるやつまでいる。巌を指さして、何か嬉しそうに会話をするやつに至っては腹立たしい限りだ。


 その時、前から何かが迫ってくるのが見えた。あまりにも早い動きだが、近付いてきて、それが何かを認識した。猫又の女だ。


「えらい目立つから見つけやすかったわ」

「!?」


 巌の視界は、真っ黒になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る