散―8

 あさぎは、大人しく寧々について、長屋に戻ってきた。


 それから三日間、あさぎは寧々の家からは出ていない。寧々は、毎日早くに出掛けては、陽が暮れてから帰ってくる。本殿の目的を探るために、あちこち飛び回ってくれているようだ。だが、落胆した顔で帰ってきているところを見ると、成果はなし。


「寧々さん、私にも何か」

「大丈夫やよ。あさぎちゃんが狙われとる理由が分からんうちは、危ないから」

「そう、ですよね」


 寧々は第六感をたくさん使った影響か、少し疲れているように見えた。瞬間移動をしているわけではなく、全力で走っているのだから、疲れて当然だ。




 十二月九日。その日も陽が暮れてから帰ってきた寧々は、座椅子に座ると、うとうとと船をこぎ始めた。冷えないように毛布をかけて、あさぎは、寧々を起こさないよう、そっと外に出た。長屋の敷地から出ない範囲で外の空気を吸うために。


「あ、星……」

 見上げた空には、星が出始めていた。


「えっと、確か『曲が流れたということは、踊らなくてはならないわけですが、お誘いしても?』で、手を差し出すんだったよね」

 星空から連想して、初めて見た覚の物語を思い出した。琥珀の芝居は美しくて、見ている方も楽しくて。


「あさぎ!」

 芝居に思いを馳せていたら、いつの間にか、目の前に凪が立っていた。


「琥珀が大変なのよ。一緒に来て!」

 息を切らして、凪はあさぎに訴えてきた。黄昏座で何かあったのか。


「急いで! ほら」

 凪があさぎの手首を掴むと、答えを聞くよりも前に走り出した。足がもつれそうになり、あさぎは手を振りほどこうとしたが、しっかりと掴まれていて、離れない。何とか体勢を立て直して走る。


 ……この寧々の家は誰も知らないはずなのに、凪は、どうしてここが分かったのだろう。

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