第14話 蝶
「
私が心配そうに覗き込むと、彼は爽やかに微笑んでこう言った。
「心配いりませんよ、ヒロコちゃん。図書館に連れて行ってくれてありがとうございました。自分の翻訳した本が、みなさんの勉強に少しでも役立っていることがわかって嬉しかったです。僕は、出版された後のことは、あまり気にしたことがなかったので…」
「また、バスに乗ってどこかに行かない?東京タワーなんてどう?」
私の言葉に、
「東京タワー!良いですね。実は、間近で見たことがないんですよ。家の近所を散歩している時に眺めてはいますけどね。あの辺りからは、よく見えますね。…東京タワーを見ると、パリを思い出します。エッフェル塔に似ていますから。バスで行けるんですか?」
「行けるのよ。この路線じゃないけど。どのバス停で乗れば良いのか調べておくわ」
楽しみだなぁ…と
「ヒロコちゃん、少し家に寄って行きませんか?実は、
遠慮なく頂くことにした私は、
…そうそう。ジャムだった。
でも、実際に、ヨーロッパではスミレの花を砂糖漬けにして食べたり、紅茶に薔薇のジャムを添えたりすることがあるのだ。驚いた。とはいえ、実際に口にしてみると、甘くて、良い香りがして美味しいと感じた。こんな私でさえも。日本の食用菊だって、絶対に口にしない私でさえも。
この薔薇ジャムたちは、今では
私は、ゆっくりと瓶を眺め、慎重にジャムを選んだ。そして最終的に、牧場のミルク缶の形をした瓶に入った物、切り株のような形をした瓶に入った物の2つをもらうことに決めた。
ジャムの入った瓶を2つ手にして、私は
「
私の言葉に、
「…!!」
その時、私が目にした光景は…。
瞳を閉じて、ぐったりしている
彼は、右手の指先から少しずつ、
とうとう、その時が…。
「
『ヒロコちゃん、僕はもう…。君に謝らなければ。僕が君と一緒にお茶を飲みたいと誘ったのは…最期の瞬間に1人でいたくなかったからなんです。魔界から来た君なら…僕がどんな姿になっても怖がったりしないと…。ごめんね…ヒロコちゃん…』
もう、
今、私と話しているのは、
一緒に東京タワーに行くって言ったじゃない…。
「謝らなくてもいいの。最期に私に
『…ヒロコちゃん、僕のこと、好き…だったの?』
右腕は、全て塵になって…。
右足が、
私の視界がぼやけてきた…。それは、どうして?
「好きなの。過去形じゃない。自分の気持ちになかなか気付くことが出来なかったけれど、でも、好きなの。初めて会った時からずっと」
『…そうだったんだ…。ありがとう、ヒロコちゃん、好きだと言ってくれて…。僕は、ヒロコちゃんが…
右半身は、全て塵になって…。
左半身は、まだ肉体が残っているのに、
私の目からは、涙が
どんどん、どんどん塵となっていく。
私は、静かに涙を流しながら、
一瞬たりとも、目を離したりはしない。
魔界からやって来た私だからこそ、そうすることが出来る。
そして、それは多分、
私は、しばらくの間、
すると、
蝶は、私の頬に留まった。私は、もっと蝶を見たくて、ガラス窓に自分の姿を
この蝶は、
私が窓を開けると、11月の冷んやりとした空気が入ってきた。蝶は、しばらくの間は、私の涙を飲んでいたが、やがて、窓の外へと飛んで行き、夜の闇へと
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