第12話 運命
私は、魔界のキツネ族だ。人間界に留学中の身ではあるが、幼い頃は、頻繁に里帰りしたものだった(そのことが、双子の兄である
でも、嘘を吐いたり、作り話をして私をからかっているのではないことはわかった。何故なら、
それよりも何よりも、私を最も驚かせたのは、私自身だ。私は、
思いがけず、気落ちした自分に戸惑った。私にとって
いや、本当は分かっている。
私は、
「初めて会った時、素敵な君から目が離せなくなりました」
「一緒の時間を過ごしていくうちに、ヒロコちゃんのことが大好きになってしまいました」
恥ずかしい。
自意識過剰も
穴があったら入りたい。
好きになっていたのは、私の方だったのだ。私は、これまで恋愛感情を抱いたことなんて皆無だったから、全く気付かなかった。私が人間界で恋をするなんて、人間相手に恋愛するなんてことはあり得ないことのはず。魔界の者は、本能的に人間には惹かれないのだから。人間に対して、好感を持つことは多々ある。だから、友人関係は築ける。でも、恋愛は無理なのだ。それが道理だ。
でも、
「ヒロコ、どうしたの?何だか、ぼ〜っとしてるじゃない?」
家に戻り、そんなことを考えながらリビングでぼんやりとしていたら、
「あははっ。何だかね。自分で自分がわからなくなっちゃって…」
「2人して打ち明け話?いいなぁ。私も混ぜて〜」
防音室で練習していたはずの
私は、
「ヒロコ、
咲子が、私の目を覗き込むようにして、そう尋ねた。
「う〜ん。そんなことないよ。自分の想いを自覚する前に振られてしまった形になっちゃって、何だか間抜けだなぁ…と思ってるだけ。
「運命なんやて!!」
唐突に柊子が叫んだ。興奮しすぎて、方言丸出しになっている。この家の中では禁じられているのに(咲子だけ方言を話せないから)。咲子も私もびっくりして、彼女の方を見た。
「よく『運命の人』ってさ、最後まで添い遂げる人のことを言うやんか。でもね、私は『運命の人』は1人だけじゃないと思っとるんやて。たとえ、この先離れ離れになってまうとしても、思いが届かずすれ違ってまうにしても、出会って、お互いの心に何かが生まれたんやとしたら、それは、もう運命やて。だって、地球にはこんなにたくさんのヒトがおるんやんか。お互いを認識できるって、それだけでもすごいことやと思わん?」
咲子と私は、柊子の勢いに圧倒されて何も言えないでいた。柊子は、私の方を見て、ゆったりとした優しい口調でこう言った。
「だからさ、ヒロコ。薔薇の君と過ごす時間を大切にしやあよ。いつかは、彼に会えへんくなる時が来るんやで。その時に悔いが残らんように、たくさん話したりしとかなあかんよ」
私は、無言でうなずいた。何だか胸が一杯で、何も言えなくなってしまったのだ。
私も、人間界にいられるのは大学を卒業するまでと決められている。
だから、ここにいられる時間はもう長くはない。
「じゃあさ、私たちも運命の同居人?」 と、咲子。
「当然やん。私が浪人しとらんかったら、ヒロコと友達になれたかわからんし。今の大学に通わんかったら、咲子と一緒に暮らしとらんよ。偶然に偶然が重なった結果やもんね」 と、柊子。
「ちょっとぉ、方言禁止!!」
「あ…。ごめん…」 小さくなる柊子。
私は、目の前の2人、つまり『私の運命の同居人たち』が今ここに居てくれて本当に良かったと、心から感謝した。私1人だけだったら気持ちを整理出来ずに、限りある時間を無駄に過ごす羽目に陥っただろう。
明日は、薔薇を配達する日ではない。
でも、
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