第4話 恋?
自分自身について驚いたこと。それは、あの日、初めて
「ヒロコ、最近ちょっとヘンだと思わない?」
ある晩、久しぶりに3人が揃って食卓を囲んでいた時に、
「ヘン…かなぁ?自分ではよくわからないけど。それよりさ、
咲子が柊子と目を合わせてニヤニヤしている。この2人は、とても気の合う
「ありがと。でも、誤魔化そうとしたってダメよ。ヒロコ、何かあったでしょう。ここ1か月くらいの間に、ぼうぅっとしたり、ため息ついたりすることが増えたわよ」
「とうとう、好きな人が出来たんでしょう…!」
柊子、落ち着け。さすがはフランス文学をこよなく愛するだけあって、アムールの兆候は見逃さないのだな。でも、どうだろう。本当に「好き」なんだろうか。
「う〜ん。好きかどうかはわからないけど、つい気になってしまう人はいるよ」
「きゃ〜〜〜〜〜っ!誰?私たちの知ってる人!?」
私は観念して、2人に
彼女たちは、身を乗り出し、瞳をきらきら輝かせて聞いてくれている。あ、ありがと。話し甲斐があるよ。でも、初めて会った時に見つめ合ったことは、何となく言いそびれてしまった。
「薔薇屋敷に住んでいるのに、週に2回も薔薇を届けているの?それならさ、家の外も中も薔薇の花だらけじゃん。そんなに薔薇が好きな人って…。ちょっと変わってるね」
ごもっとも、柊子。私も最初はそう思ったよ。
「薔薇屋敷に人が住んでいるなんて知らなかった。あのお寺のお茶室みたいなものだと思ってたわ。それにしても、その人、どんなお仕事をなさってるの?住職さんのお弟子さん?」
咲子は、私たちよりも長く薔薇寺の近所に住んでいるんだものね。不思議に思って当然です。
「彼は翻訳の仕事をしてるんだって。あまり存在が知られていないのは、昼間に外出しないからだと思う。日光アレルギーがあるから、太陽の光を避けなければならないの。それから、週に2回も薔薇の花を届けているのは、室内で鑑賞するためじゃない。もちろん、少しは飾ってあるけど。彼が薔薇を購入する1番の目的は、食べるため。食用に栽培された薔薇を届けているの」
「お天道さまを拝むことが出来ない、薔薇を食す翻訳家!?何だか、怪談話みたいね。ヒロコの好みって……。ねぇ、翻訳って、どの言語の?」
咲子がちょっと心配そうに私を見つめながら尋ねた。そう言えば、これまで
「ヒロコ、
「し、知らない。下の名前は『しん』さん。『森』と書いて『しん』と読むの。でも、名字はわからない。お仕事だって、ペンネームを使っているかもしれないし…」
柊子の目がキラリと光った。
「『森』と書いて『しん』と読むの?私、知ってる。いつもお世話になってるよ。ねぇ、その人、ひょっとしたら、フランス語の翻訳家の『
柊子によると、『
柊子の話を聞いてから、私は、
そんな私の小さな葛藤を知ってか知らずか(恐らく全く気付いていない)、
「
お茶にお呼ばれしたある日、私は、思い切って聞いてみた。すると、
「そうですよ。よく分かりましたね。ヒロコちゃんはイギリス文学志望だから、絶対に気付かれないと思ってました」
「同居している友だちが、フランス文学に詳しいの。仏文科学生の
「へぇ、そんな風に言われてるの?嬉しいですね。本名じゃないですけどね」
本名じゃないんだ。本当の名字を知りたい。でも、会話の良い流れが出来ているから、まず、こちらの質問を優先しよう。今なら、重くならずに尋ねられそうだ。
「
「……もちろん、覚えてますよ」
「あれは、そのままの意味ですよ。ヒロコちゃんの醸し出すオーラと匂いが、他の誰とも違っていたから…。ヒロコちゃんは、魔の世界に属しているのでしょう?」
えっ…。
普通の人間に見抜くことは出来ないはず。
そんなこと、不可能だ。
それなのに、それなのに、
ひょっとして、敵なのか…!
あれっ?敵なんていたんだっけ…。
「ヒロコちゃん、そんな怖い顔をしなくて大丈夫ですよ。言いふらしたりしませんから。もう、そんなに睨まないで下さい」
「僕も同類だからわかったんです。魔界出身ではないですけど」
「僕は、吸血鬼です」
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