●△□

 ついに、その時がやってきました。


 一九四一その年の十一月にはわたし達は、行動を開始していました。

 わたしは〝わり〟と共に南西へ。〝常陸ひたち〟は〝〟と東へと、分かれて作戦に参加しました。

 それまで姉妹一緒に、先輩である〝なが〟や〝陸奥みちのく〟お姉様に教えを受けて、精進したつもりです。

 ですが、分かれて行動するのは初めてで、わたしは少し心配になりました。

『では〝尾張〟、姉さんのことを頼むぞ』

 悩みすぎると、機関不調体調を崩すことがあったので〝常陸〟が心配してくれました。

『精一杯頑張ります。〝常陸〟姉さん達もお気を付けて』

 でも、長女のわたしがしっかりしないと〝尾張〟に、迷惑をかけるわけには行きません。


 わたし達は、三亜の港に碇を降ろしました。

 シンガポールにイギリスの戦艦が来ているという情報があったからです。また、アメリカの戦艦二隻が、マニラに向かっているという情報もあります。

 その戦艦のけん制と、マレー半島への上陸作戦の護衛任務が、今回のわたし達の仕事です。

 ですが、イギリスのはシンガポールの防衛に徹するモノと思われていました。

 アメリカの艦も、マニラを拠点にわたし達の後方を遮断するのが目的でしょうが、まだ太平洋を横断中とのこと。だから、秘密の任務に選ばれた〝常陸〟達には、ちょっと嫉妬していました。

 彼女達が受け持つ秘密の任務というのは、何なのでしょうか?

 無線封鎖中なので、本土を発ってからふたりから連絡はありません。

 無事でいてね。


 十二月に入ると、みんな碇を上げて南支那シナ海を南下。タイランド湾へ舵を切りました。


 六日の午後、イギリスの飛行機を発見しました。

 わたし達を偵察しているようですが、その後、予期された英航空部隊の反撃はなく、英艦隊も認めない状況が続きます。

 七日夜半、コタバル沖に展開したわたし達の前で、ついにマレー半島に上陸作戦が始まりました。

 今のところ、予定通りです。

 状況が変わったのは、シンガポール沖でしょうかい中の潜水艦からの情報でした。


『レナウン型戦艦二隻見ユ。位置……』


 情報が正しければ、イギリス艦彼女達はすぐ近くにいることになります。

 天気は曇天で、波も高く、視界も悪い状態なので正確な情報ではないのかも知れません。

 しかし、悪天候の中、第一航空部隊が偵察機を出してくれました。


『敵見ユ。位置……』


 わたしと〝尾張〟は、輸送船の護衛を南遣艦隊に任せて、イギリス艦彼女達の進撃を決めました。

 二対二であれば、主砲の威力でこちらに武運があります。

 問題があるとすれば、わたしの機関ぐらい。

 今日は不調にならないで……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る