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 桜が散る頃には、わたしは就役を予定していました。


 でも、遅れてしまいました。

 艦尾工事と平行して行われた機関の増強工事が、思うように行かないようです。

 予定していた三〇ノットは出せたのですが、不調が続き、思うように動けないでいます。

 機関の調整のために、呉のドックを出たり入ったり……。


 そんなある日。

 水平線の彼方から、わたしに負けないぐらいの……いえ、そっくりな戦艦が顔を出してきました。

 真新しい木甲板が光を反射して、青みのかかったグレーの船体をきらめかせています。


『あなたはどなた?』

『貴様が〝駿河〟か? 私は〝常陸ひたち〟だ。よろしく頼む』


 初めて会いました。横須賀で作られた次女の〝常陸〟が顔を見せたのです。

 彼女の方が順調に試験をクリアして、先に海軍へ就役したそうです。


 彼女の助けがあり、わたしの機関の調子はよくなりました。

 そして、その年の夏。彼女に続いて就役することになりました。

 長女であるはずのわたしが、二番目……少し悔しいです。


『あたいは〝〟ていうんだ! よろしく!』


 年の終わりに神戸で建造されていた〝紀伊〟が、


『わたしは〝わり〟といいます。精一杯頑張ります。どっ、どうぞよろしくお願いします』


 翌三月には、長崎から〝尾張〟がやってきました。

 続々と姉妹達が呉へと揃ったのです。

 わたし達の誕生にいろいろとあってか、どうやら個性的な子達ばかりのようですね。

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