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一九三五年(昭和一〇年)三月――。
もはや日本政府は連盟と協力する努力の限界に達した。
松岡洋右日本全権大使は、そういって国際連盟総会会場を退去した事を、白鳥はドイツの地で知ることとなる。
理由は、満州の原油だ。
日本が
そして、去る二月に日本は、国際連盟総会に訴えた。
しかし、総会で審議が行われ、投票の末……日本の訴えは否決された。
米英――東南アジアで採油していたオランダも――からしたら、駿河型戦艦の廃艦をしたといいながら、なぜ呉や横須賀の沖に船体が浮いているのか、という問題になったのだ。
日本の言い分は、
ドックの空きが無く解体の順番待ちをしており、空き次第解体する。
だが、入れ替わり立ち替わり、艦船のドックの出入りが激しいことに不信感をもたれた。
友鶴事件による検査のためにドック入りしているのだが、それを言い訳にしては「日本の艦船に欠陥がある」と、ふれまわる事になる。
結局、反対意見は消極的になってしまった。
正式の国際連盟脱退は二年後の一九三七年(昭和一二年)三月二七日だというのだが、日本の国際社会……ひいては、米英からの距離を置くことを意味していた。
(捨てる神あれば、拾う神あり……とはよく言ったモノだ)
米英の態度に異を唱える国があり、前々から日本に接近してきた。
ドイツ、イタリア、そしてソ連だ。
特にドイツと日本は、第一次大戦で曲がりなりにも戦った両国であったが、ここに来て両国は接近していた。
ドイツは敗戦国から立ち直りつつあり、なおかつ満州の原油を安く買い取ってくれる。
政権を取ったナチ党はきな臭いが、いい商売相手として手を結ぼうとしていた。
しかし、原油を売るにしても日本からドイツへは遠い。
ソ連を通じて、シベリア鉄道で運ぶルートもあるが、船での大量輸送には適わない。
ルート的には、スエズ運河か、喜望峰周りか。だが、両方ともイギリスが押さえている状態だ。どちらも、日本のタンカーが通ろうものなら、どんな嫌がらせをされるか分かったものではない。
それに、ドイツの頭角にはイギリスが酷く警戒する。第一次大戦の事もあるので仕方がないことであろう。
そこで取ったのは、イタリアを仲介することだ。
スエズ運河が繋がっている紅海の出口に、イタリア領ソマリランドがあった。
イタリアが中に入るが、日本船はそこまで運べばいいわけで、スエズ運河を経由してヨーロッパ大陸に原油を運ぶことが出来る。
今のところ、イタリアのムッソリーニ政権はイギリスと良好な関係だ。
日本としては、これからもその関係が続くことを、願うだけだった。
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