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 ふたりの夢……。

 山奥の小学校で、ガキ大将として子供達を纏めていた木戸。

 あるとき、彼のいる小学校に白鳥が遠くから転校してきた。

 小柄でひ弱な白鳥であったから、子供達のいいカモだ。

 いじめの対象になろうとしたとき、ふとしたことであった。

「なんだ、これ?」

 子供の頃、木戸が見たこと無い物を白鳥は持っていた。

「――ぐっ、軍艦だよ」

 絵を描くのが趣味だった白鳥が持っていたのは、一冊のスケッチブック。

 それに書かれたのは、山奥の里では見たことのない青い世界。そのど真ん中に書かれた巨大な船。

 白鳥が、ここに転校する前にいた港街で書いた軍艦のスケッチだった。

「お前が描いたのか?」

「そっ、そうだ……」

 木戸は初めて見る青い大海原。それに大きな城のような軍艦に心を持っていかれた瞬間であった。

 その後、白鳥を質問攻めにする木戸は、親友になった。そして、彼の興味は、見たことのない海へ……海軍へと進む。入ったことのない学校の図書館に二人で行っては、海に関することや軍艦に関することなどの本を読みあさった。

 いつしか、ふたりで夢を語った。

「僕は軍艦を造る」

 白鳥の言葉に、木戸はこう答えた。

「だったら、俺はお前の造った戦艦に乗りたい!」


 それがふたりの夢……。

 海軍兵に志願した木戸と、大学に進学し造船士官となった白鳥。

 入ってすぐにふたりの夢は、そう簡単に適うものでは無いことを思い知らされた。

 木戸は歯を食いしばり、ゆっくりとであったが十数年かけて下士官まで上り詰めた。

 白鳥は帝国大学に進み、造船を学んだ。仕官してからも並々ならぬ努力を重ね、この新戦艦〝駿河〟の設計部門に末端ではあったが加わることが出来た。

 しかし、彼等の夢をつかみかけたところで、頓挫してしまった。

 これは、ふたりでは……一兵士と一士官では、どうすることも出来なかった。

 世界情勢が、その夢を叶わせなかったのだ。

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