第47話 ずっと一緒です

魔術師様が私に分かりやすい様に、丁寧に説明してくれる。どうやら私とアレホ様以外の人間は、部屋から出される様だ。心配そうな顔で、両親と陛下、王妃様、使用人たちが出ていく。


「リリ…ナ…やめ…」


意識が朦朧としているアレホ様が、私に必死に訴えてくる。でも私は…


「大丈夫ですわ。絶対に成功させて見せます。それにたとえ失敗しても、一緒にあの世に逝けるのです。アレホ様、随分時間が掛かってしまい、申し訳ございません。私もアレホ様が大好きです。ずっと過去に囚われてしまい、大切な事を見失っておりましたわ。どうか私と共に、未来を歩んで行ってください」


「リリ…」


アレホ様の瞳から、ポロポロと涙が溢れている。そっとアレホ様の涙を拭いた。既に覚悟は出来ている。どんな結果になろうと、もう二度と私は、アレホ様から離れるつもりはない。


それに何より、マルティ様。あの人だけは許せない!あの人の思い通りにはさせない!あまりにも自分勝手すぎるマルティ様に、私は今までに感じた事のないほどの怒りがこみ上げているのだ。


“それでは始めましょう。まずはこの呪文を覚えて下さい”


魔術師様から呪文の書いた紙を見せられた。それほど難しい呪文ではない様で、呪文自体はすぐに覚えられた。


「呪文は覚えられましたわ。それで次はどうすればよろしいのですか?アザが随分と薄くなっております。早くしないと」


“リリアーナ嬢、落ち着いて。焦りは禁物です。この後が非常に難しいのですが、全神経を集中させて下さい。そして殿下を助けたいと強く念じるのです。いいですか?あなた様の体の中には、魔力があります。その魔力を目覚めさせるのです。チャンスは一度きり。魔力を集中させた後、呪文を唱え、そのまま殿下の唇の口づけをして下さい”


えっ?口づけをするの?て、今そんな事を言っている場合ではない。


「分かりましたわ。やってみます」


“いいですか、リリアーナ様。万が一失敗すれば、あなた様も命を失います。その事だけは忘れないで下さい”


「分かっております。既に覚悟は出来ておりますから」


私はアレホ様を助けたい。ゆっくり目を閉じ、今までアレホ様にして頂いた事を思い出す。アレホ様はいつでもどんな時でも、私の事を一番に考えてくれた。自分の命と引き換えに、私を助けてくれた。だから今度は、私が助けたい。お願い、私の中に眠る魔力、どうか目覚めて。


するとなぜだろう、今まで感じた事のない感覚に襲われた。今だ!直感でそう感じると、すぐに呪文を唱え、アレホ様の唇に自分の唇を重ねた。


温かくて柔らかい…


どうか生きて!


その瞬間、私とアレホ様を温かい光が包んだのだ。


さらに


“イヤ…どうして…どうしてよ!消えたくない、止めて”


目の前にはパラパラと体が崩れ落ちていくマルティ様の姿が。これは一体…


“どうしてよ!どこまで私を苦しめれば気が済むのよ!あなたのせいで私の魂が…”


ギロリと睨むマルティ様。黙って聞いていれば勝手な事を。


「ふざけないで!どこまで私を苦しめれば気が済むのは、私のセリフよ!そもそも自業自得でしょう!あなたのせいで、私とアレホ様が、どれほど傷ついたか!」


“うるさい、私は…”


「私とアレホ様は、絶対に幸せになって見せる。あなたなんかに負けない!さようなら、マルティ様」


そう言うと、既に顔だけになっているマルティ様にほほ笑んだ。


“どうして…イヤァァァァ・・・・”


悲鳴を上げながら完全に消滅したマルティ様。これで本当の意味で、全てが終わったのだろう。


「リリアーナ!大丈夫かい?あの女は、完全に消滅した様だな…」


私をギュッと抱きしめてくれるのは、アレホ様だ。どうやらアレホ様も、マルティ様の姿が見えていた様だ。


「アレホ様、よかった。元気になられたのですね!マルティ様は完全に消えました。本当の意味で、全てが終わったのですね…」


マルティ様の魂が消滅した今、もう何かに怯える事もないだろう。


“殿下、リリアーナ様、よかった、成功したのですね。それにしてもリリアーナ様の魔力、素晴らしいものでした。あなた様には魔法の素質があります。どうですか?我が国に来て、ぜひ魔力の勉強をしませんか?あなた様ならきっと、大魔法使いになれます。私が証明いたします”


よくわからないが、魔術師様がとても興奮している。


「師匠、リリアーナは僕と結婚して、この国の王妃になるのです。悪いがあなた様の国にはいかせられませんから」


私を抱きしめながら、そう言い切るアレホ様。


「アレホ様の言う通りですわ。もう私は、アレホ様から離れるつもりはありません。それに、魔力も興味がありませんわ。これからはアレホ様と共に、平和な国を目指したいと思っておりますの」


魅了魔法に始まり、呪いの魔法まで、本当に魔法はもう懲り懲りなのだ。出来れば今まで通り、魔法とは無縁な世界で生きていきたいと考えている。

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