第46話 殿下を助けたい

殿下が私の身代わりになって、半日が経った。日に日に殿下の容態は悪化していく。


「殿下、お願い、私を残して逝かないで下さい。どうして私の身代わりになんてなったのですか?私はこれから、どうやって生きていけば…」


必死に殿下に縋りつき、泣いた。何度ももう一度私に呪いが戻る様に身代わりの魔法を掛けてみたが、全くうまく行かないのだ。


そんな私の頭を優しく撫でてくれる殿下。首の裏のアザも、今真っ黒に染まっている。確か魔術師の方が、丸1日しか持たないと言っていた。という事は殿下の命は、後半日たらず…


そう考えたら、全身から血の気が引いた。嫌よ、殿下を…いいえ、アレホ様を失うだなんて。私はやはり、アレホ様と共に歩んでいきたい。今強くそう思ったのだ。この状況でそんな風に思うだなんて、私って本当に間が悪いわね。


ふとアレホ様から貰った人形の方に目をやる。皆が言っていた通り、粉々だ。きっと私を守るために、アレホ様はこの人形を私にくれたのだろう。アレホ様はいつもそうだ。私の事を一番に考え、私が何をすれば喜ぶのかを必死に考えてくれている。


それなのに私は…


このままアレホ様を失ったら、私はもう生きる希望すら失ってしまうだろう。私に何かできる事はないのかしら?このまま、ただアレホ様の命が尽きるまで、見守る事しか出来ないの?


「リリ…ナ…来て…泣か…で…笑顔…見たい」


アレホ様が必死に私の方に手をのばしてきている。彼の手をギュッと握った。温かくて大きな手…アレホ様はまだ生きている…


「アレホ様、私はずっとここにおりますわ。もうどこにも行きません」


そう伝え、アレホ様に笑顔を向けた。私、上手に笑えているかしら?せめてアレホ様の願いを叶えてあげたい。私も呪いに掛かっていたころ、アレホ様に傍にいて欲しかったものね。まさか自分が、逆の立場になるだなんて。


相当苦しいはずなのに、ほとんど声を上げることなく必死に耐えているアレホ様。気が付くと夜が明け、日が昇り始めていた。首の裏のアザも、少しずつ薄くなっている。


どうしよう…

このままだと本当にアレホ様が死んでしまうわ。それだけは絶対に嫌。


再び魔法書を手に取り、身代わりの呪文を必死に唱えた。やはり身代わりになる事はない。どうして身代わりになれないの?どうして…


どれくらい泣いただろう。それでも次から次へと涙が溢れでる。その時だった。アレホ様が持っていた鏡が目に入ったのだ。


あの鏡、確か魔力大国の魔術師の方と繋がっていた。


藁をもすがる思いで鏡を手に取る。


「お願いします、魔術師様。応答してください!助けて下さい」


必死に鏡に向かって話しかけた。すると


“あれ?君は?確か呪いにかけられた令嬢の”


「リリアーナと申します。実はアレホ様が、身代わりの魔法を使ってしまって。もうすぐアレホ様の命が尽きようとしているのです。お願いです、何でもします!どうか助けて下さい!お願いします」


鏡に向かって何度も何度も頭を下げた」


“殿下が身代わりの魔法を…よくあの難しい魔法を成功させたものだ。さすがだな…て、感心している暇はない。それで今、アザの様子は?”


「随分と薄くなっております。お願いです、アレホ様にもしものことがあったら、私は…」


“落ち着いて下さい。呪いの対象が殿下に移ったのなら、解けるかもしれない。ただ、非常に難しい魔法かつ、殿下が心から愛しているあなた様にしか解く事が出来ない魔法です。その上、命を削る魔法とまで言われております。魔法が成功すれば問題ないのですが、失敗すれば、あなたも命を失う非常に危険なものですが…”


「…ダメ…だ…そんな…」


必死にアレホ様が訴えている。でも私は!


「アレホ様、あなた様は命をかけて私を守ってくださいました。今度は私の番です。それに私は、アレホ様がいない人生なんて考えられません。魔術師様、どうかお願いします」


「リリアーナ嬢、君の命に関わる事なのだぞ。公爵、夫人もいいのかい?」


陛下もなぜか私たちに必死に訴えかけている。


「リリアーナが決めた事なら、私は何も言うつもりはありません。それに殿下は、自分の命と引き換えに娘を助けて下さいましたし」


「リリアーナだけ生き残ったとしても、きっと生きる希望を失い、抜け殻になってしまうわ。だって私の子供だもの。あなたが一番よく知っているでしょう?リリアーナの為にも、それが一番いいと思うの」


お母様が王妃様の肩を抱き、伝えている。王妃様も


「そうね…ありがとう」


そう言って泣いている。


“話は纏まったようですね。もう時間がありません。準備を進めましょう”

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