第43話 師匠でも無理なのか~アレホ視点~
僕は鏡を取り出し、心の中で念じる。すると
“やあ、アレホ殿下。お久しぶり…というほど時間も経っていませんね。あなた様の作った人形が先ほど壊れた様ですが、一体何があったのですか?”
鏡の中からは、少し困った顔の師匠がうつっていた。
「師匠、大変なのです。僕の大切な人が…どうやら呪い魔法にかけられてしまった様で。ただ、掛けたと思われる相手は、1年前に処刑され、この世にはいないのです!でも、あの女しか考えられなくて…今にも命の灯が消えそうなのです。僕は彼女が苦しんでいるのに、何もできなくて」
この1年、リリアーナの事だけを考えて生きて来た。リリアーナが安心して暮らせるように、もう二度とあのような魔法を使う人間が現れない様に、色々と対策を取って来たのに。
まさかこんな事になってしまうだなんて。僕は一体、今まで何をしていたのだろう。
気が付くとボロボロと涙が溢れていた。
”殿下、落ち着いて下さい。とにかくその呪いというのがどんな物か見てみないと分かりませんが、既にそこまで衰弱しているのでしたら、相当強い呪いなのでしょう。私が殿下と一緒に込めた守りの魔法の人形が壊されるほど。という事は…”
顎に手を当てて考える師匠。
”とにかく、その令嬢と元に連れて行ってくださいますか?”
「わかりました。今から馬車で移動いたしますので、少々お待ちください」
一旦鏡越しの通信を切り、急いで公爵家へと戻ってきた。
「リリアーナ、大丈夫かい?さっきより顔色が悪くなっているではないか?また血を吐いてしまったのかい?なんて事だ!」
僕が出掛けていた数十分の間に、また状況が悪化している。とにかく急がないと。すぐに鏡から師匠を呼び出した。
「師匠、彼女が僕の大切な人、リリアーナです。お願いです、リリアーナを助けて下さい」
鏡越しにリリアーナの姿を見せた。すると、一気に顔色が変わった師匠。
”これは…間違いない。呪い魔法だ。それもかなり強力の。この呪いをかけた人間は、既に亡くなっていると言っていましたね…きっと亡くなる寸前に、自分の全生命エネルギーを使って、呪いをかけたのでしょう。それにしてもこの呪い、厄介だ。すぐに発動するものではなく、ほとぼりが冷めた時、ちょうど自分の命が消えた1年後に、呪いが発動されるようになっていたのですね…”
「そんな事が出来るのですか?」
”ええ、出来ます。さらにこの呪いは厄介で、呪いをかけた人物の魂まで込められています。人間は通常、亡くなった後魂だけ残ります。その為、何度も転生を繰り返すと言われているのです。でも呪いをかけた人物は、自分の魂までも使って呪いをかけているのです。そうすることで、より強力な呪いになる。ただ、万が一呪いを解かれてしまったら、呪いをかけた人間の魂は消滅してしまいますが…”
よくわからないが、マルティは相当強い呪いを、リリアーナに掛けた様だ。
「それで師匠、この呪いを解く事は出来るのですか?お願いです、今すぐ解いて下さい。このままではリリアーナが…」
本当にリリアーナが死んでしまう!恐怖から再び体が震えだした。
「あの…あなた様はパラレル王国の魔術師様ですよね。お願いです、どうか娘を助けて下さい!」
「魔術師様、お願いします。どうか呪いを」
公爵や夫人、リヒト殿、さらに使用人たちまで、鏡に向かって必死に頭を下げている。
”…すまない。ここまで強力な呪い魔法を見たのは、私も初めてなのです。解くためにはかなりの時間が掛かるでしょう…非常に申し上げにくいのですが、彼女の命が持たないかと…首の後ろに、呪い魔法の証でもある、どくろのアザがあるかと思います。そのアザは今何色ですか?”
どくろのアザだって。そんなものがあるのか?
そう思いつつ、リリアーナの首の後ろを見ると、確かにどくろのアザが出来ていた。なんなんだこれは…
「師匠、ありました。今紫色をしています」
”そうですか…そのどくろが黒色に代わり、さらにアザが薄くなり消えた時、彼女の命の灯が消えるときです。後持って、丸1日くらいでしょうか…さすがに丸1日で、呪いを解くのは不可能かと…”
そんな…
後1日でリリアーナが…
嫌だ、そんなの絶対に嫌だ。もしリリアーナがこの世からいなくなったら、僕はどうやって生きていけばいいのだろう…
「そんな!お願いです。どうかリリアーナを助けて下さい」
「魔術師様、お願いします」
隣で必死に公爵や夫人たちが師匠に向かって訴えている。
“私も出来る事はやってみます。ただ…あまり期待しないで下さい。それでは私はこれで“
そう言って逃げるように、師匠は姿を消してしまったのだった。
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