第44話 これでリリアーナが助かるのなら…~アレホ視点~
師匠の様子からして、きっと呪いを解く事は出来ないのだろう。隣では公爵が頭を抱え、夫人が泣きじゃくっていた。リリアーナ専属メイドも、涙を流している。
「リリアーナ、可哀そうに…どうしてこんな事に。お父様が変わってあげたい…」
そう言って公爵が泣きながらリリアーナを抱きしめている。
「お…とう…さま、心配かけて…ごめん…なさい…ゴホゴホゴホ」
また吐血してしまったのだ。
「リリアーナ、もう話さなでくれ!とにかくこんなところでじっとなんてしていられない。何か出来る事はないか、調べてくる」
そう言うと、公爵は出て行ってしまった。
「私のリリアーナが…」
「母上」
リリアーナの母親はよほどショックだったのだろう。その場で意識を失ってしまい、リヒト殿が夫人を抱きかかえ、部屋から出て行った。
僕はそっとリリアーナに近づく。今にも命の灯が消えそうなリリアーナ。
「リリアーナ、すまない…君を守ると決めたのに。頼む、死なないでくれ。僕は君がいないと、生きていけない。お願いだ、僕を残して、逝かないでくれ」
リリアーナにこんな弱音を吐いてしまうだなんて…でも、本当に今僕は、リリアーナを失おうをしている。それが怖くて怖くてたまらないのだ。リリアーナのベッドにうずくまって、声を殺して泣いた。
そんな僕に
「でん…か…泣かない…で…」
そう言って僕の頭を撫でながら、ヘラっと笑ったのだ。苦しくて痛くて辛いだろうに。それでも僕を安心させようと、必死に笑いかけてくれているだなんて…
僕も泣いてなんていられない。ゴシゴシと涙をぬぐう。
「リリアーナ、君が一番辛いときに、気を遣わせてしまってごめんね。僕も出来る事を考えるから、少し待っていて」
そう伝え、部屋から出て行こうとしたのだが…
ギュッと僕の手を握ったリリアーナ。そして、なぜか首を横に振ったのだ。
「傍に…いて…」
振り絞る様にリリアーナが呟いた。
「リリアーナ…分かったよ。ずっと傍にいるから」
そう伝え、リリアーナを抱きしめた。やっぱりリリアーナを死なせたくはない。近くに控えていた使用人に、魔法書を持ってきてもらう様に指示を出す。
リリアーナを助ける方法が何かあるはずだ!僕は絶対に諦めない。
ただ、リリアーナの苦しみ具合は時間が経つとともに増していった。既に夜も更けているが、よほど苦しいのか、次第にうなり声を上げ始めたのだ。
夫人や公爵、リヒト殿、さらに父上や母上までもがリリアーナの部屋に集まって来ていた。
「リリアーナちゃん、なんて事なの。あなた、国王でしょ?何とかしてください」
「何とかしろと言われても…今、パラレル王国に応援の要請を出している。それまで持ちこたえてくれるといいが…とにかく、私たちは見守る事しか…」
「そんな…」
母上もリリアーナの母親も泣いている。父上や公爵、リヒト殿も辛そうにリリアーナを見つめていた。どうしようもできない自分たちの無力さを嘆くように…
「殿下、お待たせいたしました。頼まれていた書物です」
「ありがとう」
使用人から魔法書を受け取ると、隅々まで読み始めた。必ずリリアーナを助ける方法があるはずだ。これほどまでに分厚い書物なのだから!藁をもすがる思いで、読み始める。
ついには日が昇り始めた。首の後ろにあるアザも黒色に変わり、次第に薄くなり始めている。
「アザが薄くなり始めているわ。嫌よ、リリアーナ…逝かないで」
夫人がリリアーナに抱き付き、声を上げて泣き始めたのだ。リリアーナはもう、意識が朦朧としている様で、目が虚ろ。話す事すら出来ていない様だ。
もうダメなのか…
いいや、僕はまだ諦めない。何とかしてリリアーナを助けたい。
その時だった。僕はある魔法を見つけたのだ。この魔法を使えば、リリアーナが助かるかもしれない。でも、この魔法、かなり難しそうだな。
とにかく呪文を覚えるように、ブツブツと呟く。そして日が高く昇り始めた頃、リリアーナのアザが消えかかっている。もう時間がない!
「皆、どいてくれ!」
リリアーナのベッドに縋りついている皆に離れる様に促す。
「アレホ、一体何を?」
皆が不思議そうに僕を見ている。とにかく時間がない。
“殿下、いいですか?私達人間には皆、魔力を持っているのです。その魔力をいかに引き出せるか、いかに精神を集中できるかが、上手く魔法を使う鍵なのです”
師匠に教えてもらった言葉通り、僕は全神経を集中させる。雑念を少しでも入っていれば、この魔法は失敗する。大丈夫だ!
ゆっくり深呼吸をし、覚えたての呪文を唱えた。
と、次の瞬間!
「うっ…」
体中に激痛が走り、急に呼吸もし辛くなった。そして僕は、その場にうずくまる。
「あら?私、一体…殿下!どうして」
声を方を見ると、リリアーナがベッドから起き上がり、僕に近づいて来る姿が目に入った。よかった…成功したのだな。
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