第41話 呪いに掛かった様です

「リリアーナ、一体どうしたんだい?リリアーナ」


「で…ん…か…」


大丈夫です、そう言いたいが、全然大丈夫ではない。息もだんだんしずらくなって来た。苦しい…痛い…


と、次の瞬間


「ゴホゴホゴホ…」


えっ?


手には大量の血が。どうやら吐血してしまった様だ。


「リリアーナ!しっかりするんだ!とにかく屋敷に戻ろう」


私を抱きかかえた殿下が、急いで馬車へと戻ろうとしている。子供たちも私の変わりように、泣いている子たちもいる。修道女たちも、どうしていいのか分からず、オロオロしている。


「殿下、リリアーナ様、どうされたのですか?吐血されたのですか?」


血相を変えてやって来たのは、修道長様だ。


「しゅう…ちょう…さま…」


「リリアーナ様、どうか話すのはお止めください。私も一緒に参りますわ」


どうやら修道長様も付いて来てくれる様だ。殿下に抱かれ、そのまま馬車へと乗り込んだのだが…


苦しい…どうしてこんなに苦しいのだろう。今度は喉が焼ける様な激痛に襲われる。あまりの激痛に、涙が溢れ出す。


「リリアーナ、苦しいのかい?クソ、どうしてこんな事に!もっと馬車を飛ばしてくれ。とにかく急いで!」


珍しく殿下が声を荒げている。


「すまない…僕が付いていながらこんな事になるだなんて…」


ポタポタと私の顔に冷たいものが当たる。意識が朦朧とする中殿下の方を見ると、ポロポロと涙を流して泣いていた。殿下が泣く姿、初めて見たわ…



「殿下…泣かないで…」


「リリアーナ、頼む。もう話さないでくれ。また吐血したら大変だ。大丈夫だ、きっと君を助けるから」


そう言って泣きながらほほ笑んでいる。ただ、私を抱きしめている殿下の手が、小刻みに震えていた。殿下がこれほどまでに取り乱すなんて、珍しい。また意外な一面が、見られたわ。


苦しくてたまらないのに、なぜかそんな事を考えてしまう。


「リリアーナ、屋敷に着いたよ。すぐに医者に診てもらおう。きっと大丈夫だから!」


私を抱えた殿下が、馬車から降り、屋敷へと入って行く。


「殿下、それにリリアーナも。一体何が起こったのですか?さっき血相を変えたソフィーが一足先に帰って来て…」


「夫人、医者の手配は出来ていますか?それから公爵もすぐに帰って来てもらう様に連絡を!」


「リリアーナ…なんて事なの。一体誰が…」


「母上、しっかりしてください!殿下、一体何が起こったのですか?」


「話は後だ。すぐに医者を!」


フラフラと倒れそうになるお母様を、リヒト殿が必死に支えている。すぐに執事や使用人たちが動き出した。


「殿下、医者の手配は出来ております。お嬢様のお部屋はこちらです」


メイドたちに連れられ、自室に戻ってきた。そしてベッドに寝かされる。既に待機していた医者に診察してもらうが


「症状から見て、毒かと思いましたが、体内から毒は検出されませんでした。正直言って、原因が分かりません」


どうやら毒ではない様だ。それなら私の体は、どうしてしまったのだろう。苦してく痛くて、意識が朦朧とする。


「毒ではないだと!それじゃあ一体どうしてリリアーナはこんなに苦しんでいるんだ?とにかく、至急精密検査を行ってくれ。苦しそうなリリアーナを、これ以上移動させるのは可哀そうだ。すぐに必要な器具を公爵家に運んでくれ」


殿下が医師に指示を出している。その時だった。目の前に、不敵な笑みを浮かべたマルティ様が現れたのだ。その姿を見た瞬間、背筋が凍るのが分かる。


“いい気味ね。あなただけ幸せになるだなんて、絶対に許さない!あなたも早くこちらの世界に来なさい、と言いたいところだけれど、まだダメよ。まだまだ痛みと苦しみに耐えてもらうわ。あなただけは、絶対に許さない。絶対にアレホ様と幸せに何てさせないから!”


そう言うと、不敵な笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくる。


「い…や…来ないで…マルティ…さま…お願い…」


動かない体を必死に動かす。


「リリアーナ、どうしたんだい?そんなに怯えて。何が見えるのだい?しっかりするんだ、リリアーナ」


殿下の声が聞こえるが、今はそれどころではない。マルティ様が私に触れようとした瞬間


バリィーン


と、何かが割れる音が聞こえた。その瞬間、マルティ様の姿が消えたのだ。


今の音は一体…


「リリアーナ、大丈夫かい?今マルティと言ったよね?まさか…」


「殿下、人形が木っ端みじんに砕けております」


「何だって?」


どうやら机に飾ってあった昨日殿下から貰った人形が、壊れてしまった様だ。


「この人形が壊れるだなんて。リリアーナ、今あの女の名前を口にしたよね。まさか…」


「でんか…私は…マルティ…さまの、呪いに…かかっている…様です」


マルティ様は殿下に魅了魔法を掛けた張本人。きっと何らかの形で、私に呪いをかけたのだろう。さっきのマルティ様の姿を見て、確信した。


「そんな…あの女は1年も前に処刑されたはずだ。それなのにどうして。でも、この人形が砕けたという事は、リリアーナは何らかの邪悪な魔力によって、苦しめられているのだろう。そう言えばちょうど1年前の今日、あの女は処刑され、命を落とした。執行時間も、リリアーナが倒れた時間とほぼ同じ。という事は…」


殿下が頭を抱えてその場にうずくまってしまった。一緒に付いて来てくださった修道長様も、お母様も泣いている。


私はこのまま、マルティ様に呪い殺されてしまうのかしら…



※次回、アレホ視点です。

よろしくお願いします。

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