第40話 殿下も孤児院に来ていました

「リリアーナ様の心が少しでも晴れて、ようございました。せっかくですから、子供たちに会って行かれますか?リリアーナ様がいらっしゃると、子供たちもすごく喜びますので」


「ええ、もちろんですわ。今日は子供たちの為に、色々と持ってきましたの。喜んでくれるかしら?」


「まあ、ありがとうございます。公爵様といいリリアーナ様といい、高貴なご身分の方が孤児院に目を向けて頂けることは、大変ありがたい事なのですよ。公爵様とリリアーナ様が慈悲活動に力を入れていると聞きつけた別のご貴族様たちも、孤児院に目を向け始めて下さっております。それになりよりも殿下です。殿下はあの日以降、全国の孤児院の実態を調査されている様で、子供たちが安心して暮らせる孤児院を目指して、今動いて下さっているのですよ」


「まあ、殿下がですか?」


「元々真面目で誠実な方なのでしょう。王都だけでなく他の街の孤児院にも、通われていると聞きましたわ。それもこれも、リリアーナ様のお陰です。あなた様がここにいらしていなかったら、殿下がいらっしゃる事もありませんでしたので」


「そんな、私はお礼を言われる様なことはしておりませんわ」


殿下はそう言う人だ。目の前に気になる案件があれば、全力で解決しようとする人。また寝不足になっていないといいのだけれど…


「長々と申し訳ございません。子供たちが待っております。さあ、参りましょう」


修道長様と一緒に、孤児院に向かうと


「リリアーナお姉様」


嬉しそうに子供たちがやって来たのだ。


「皆、久しぶりね。はい、これ。プレゼントよ」


「まあ、可愛いペンとノートだわ。それにお洋服もある。ありがとう、リリアーナお姉様。殿下からもプレゼントをもらったから、今日はプレゼント祭りね」


そう言って笑っている女の子たち。


「殿下からもプレゼントを?」


「ええ、そうよ。今男の子たちと打ち合いをしているわ。殿下、とても強いのよ。そうだわ、リリアーナお姉様、一緒に見に行きましょう」


私の手を引き、外に出ていく女の子たち。するとそこには、楽しそうに打ち合いをしている殿下と男の子たちの姿が。


「やっぱり殿下は強いわよね。皆相手にならないのよ。でも皆、殿下みたいに強くなりたいって、一生懸命練習しているの。中には騎士団に入団した子もいるのだから」


「まあ、そうなのね。殿下は良くここに居らっしゃるの?」


「そうね、リリアーナお姉様より少し多いくらいかな。でも殿下、リリアーナお姉様がいらっしゃらないと、すぐに帰ってしまうのよ。リリアーナお姉様、どうか殿下の事を受け入れてあげて」


えっ?この子達、何を言っているの?


「そうよ。リリアーナお姉様の事、大好きなのですもの。お姉様だって、殿下の事を嫌いではないのでしょう?それならお願い」


必死に訴えかけてくる少女たち。さて、どう答えたものか…


その時だった。


「リリアーナ、修道長との話は終わったのかい?君の家に行ったら、こっちに来ているというから、僕も来たんだよ」


「そうだったのですね。それにしても殿下は、子供たちの扱いが上手いのですね。なんだか意外な一面を見た気がしますわ」


「そうかな?それは嬉しいな。最初はどう接していいか分からなかったのだけれど、何度か通ううちに仲良くなれたんだよ。それに子供たちと打ち合いをしていると、僕も楽しいしね」


そう言って笑った殿下。


「私も子供たちと一緒にいると、心が癒されますわ」


この孤児院に来るようになってから、私は何度子供たちの笑顔に助けられたか。いつか私も、子供が欲しいな、なんて考えてしまう。


「殿下とリリアーナお姉様、とってもお似合いね。ねえ、もう打ち合いは終わったのでしょう?せっかくだからお部屋に戻って、お勉強をしましょう。私、分からない問題があって」


「えっ、勉強は嫌だな。僕はもっと殿下と打ち合いがしたいよ」


「もうずっと打ち合いをしているじゃない。さあ、部屋に戻るわよ」


嫌がる男の子たちを、女の子たちが無理やり部屋へと連れて行く。その姿がなんだか可笑しくて、殿下と顔を見合わせて笑った。


こんな何気ない平凡な日々が、なんだかとても幸せに感じる。これからもずっと、こんな日々が続けばいいのに…


ついそんな事を考えてしまう。


「リリアーナ、僕たちも部屋に戻ろう。子供たちに勉強を見てあげてないといけないしね」


「そうですね、戻りましょう」


スッと差し出された殿下の手を握ろうとした時だった。


ドクン!


心臓を握りつぶされる様な激痛が走ったのだ。


「うっ…」


あまりの痛みに立っていることが出来ずに、その場にうずくまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る