第23話 修道院に行きました

翌日、心が晴れず、なんだか修道長様に無性に会いたくなった。私を地獄から救い出してくれた修道長様。彼女の顔を見れば、心が少しは晴れるかもしれない。


そう思い、修道院へと向かった。


ただ、この日は修道長会議があるそうで、修道長様はいらっしゃらなかった。どうしよう…このまま帰るのも何だし。


「リリアーナ様、よろしければ子供たちに会って行かれませんか?子供たちは、リリアーナ様が大好きな様で。あなた様がいらっしゃれば、きっと子供たちも喜びますわ」


そう言えば最近、子供たちに会いに来ていなかった。せっかくだから、子供たちの様子を見てから帰ろう。


「ありがとうございます、それでは少しだけ孤児院の方にお邪魔させていただきますわ」


早速孤児院に向かうと


「リリアーナお姉様だ」


「本当だ、リリアーナお姉様、来てくれたのね」


子供たちが嬉しそうに私の方に飛んできたのだ。


「皆、久しぶり。元気にしていたいた?」


「ええ、見て、このお洋服、公爵様が送って下さったのよ。とても素敵でしょう?」


「リリアーナお姉様がくれたノートとペンで、毎日勉強もしているのよ。ねえ、お姉様、お勉強を見て」


「こっちでお人形遊びをしましょう」


「えほんよんで」


「僕の竹刀さばきも見て欲しいな」


子供たちが一斉に話しかけて来た。


「皆、一度に出来ないから、1つずつ対応していくわね。まずはお勉強から始めましょう」


皆が私の周りに集まり、お勉強を始めた。一生懸命字の練習をしたり、計算をしたりする子供たち。お勉強の後は人形で遊んだり、本を読んだり、竹刀さばきを見せてもらったりして過ごす。


決して恵まれた環境ではない彼らが、それはそれは楽しそうに私に色々と見せてくれる。そんな姿を見ていたら、自分がいかにちっぽけな世界で生きているのか、痛感させられた。


それと同時に、心が少し軽くなった。やっぱり私は、私らしく生きたい。殿下がいくら自分の気持ちを押し付けて来ても、無理なものは無理なのだ。


「皆、今日はありがとう。とっても楽しかったわ。実はね、私、ちょっと落ち込んでいたの。でも、皆の顔を見たら、なんだか元気が出てきたわ」


「リリアーナお姉様、落ち込んでいたの?誰かに虐められたの?」


「リリアーナお姉様を虐める奴がいるなんて、許せない!私が退治してあげるわ」


「僕も!」


子供たちが一斉に声を上げたのだ。なんて優しい子たちなのだろう…


「随分と賑やかね。リリアーナ様、こんにちは。最近姿をお見せになられなかったので、気にしておりましたの。元気そうでよかったですわ。今日は私に話しがあっていらっしゃったと修道女から聞いたのですが」


私達の元にやって来たのは、修道長様だ。


「そのつもりだったのですが、子供たちと一緒に過ごすうちに、気持ちが楽になって。ですので、もう大丈夫ですわ」


「それはようございましたわ」


そう言ってほほ笑んでいる修道長様。その時だった。


「あれ?あそこに誰かいるわ」


「本当だ!誰だろう?」


子供たちが一斉に部屋の外から出て行った。一体誰がいるのかしら?私も気になって見に行くと、そこにいたのは…


「殿下、どうしてあなた様がこちらにいらっしゃるのですか?」


そう、そこにいたのは、殿下だったのだ。


「でんか?でんかって、王子様の事?」


「いや…その…」


気まずそうな顔をしている殿下。


「皆さん、リリアーナ様がおっしゃった通り、こちらにいらっしゃる方は、この国の王太子殿下の、アレホ殿下ですわ。ご挨拶をして」


修道長様が、子供たちに声を掛ける。すると、一気に目を輝かせる子供たち。


「殿下、初めまして。私はカレナです」


「僕はベスです。よろしくお願いします」


子供たちが次々に挨拶をしていく。修道長様や修道女の方たちが、きちんと躾をしていらっしゃるお陰か、皆礼儀正しいのだ。


「こんにちは、皆随分と礼儀正しいのだね。初めまして、僕はアレホ・ファレス・カレティスです。仲良くしてくれると嬉しいな」


殿下が優しい眼差しで、子供たちに話しかけた。


「それじゃあ、一緒に遊びましょうと言いたいところですが、殿下の顔色が良くないですよ。しっかり寝ないとダメです」


「確かに真っ青な顔をしていらっしゃるわ。それに目の下にクマも出来ているし。もしかして、寝かせてもらえていないの?」


「いや、僕は…」


「ここでゆっくり休んでください」


子供たちが殿下の為に、自分たちのベッドに案内している。さあ、早く眠って!と言わんばかりに、嬉しそうに子供たちが殿下を見つめている。さすがに寝ない訳にはいかないだろう。


「ありがとう、それじゃあ、少し休ませてもらうよ」


そう言うと、ベッドに横になった殿下。


「さあ皆、殿下がゆっくり休めるように、静かにしていましょう。このお部屋には入ってはいけないからね」


そう言うと、子供たちが部屋から出ていく。私も追い出されてしまった。確かに最近の殿下、随分とやつれていたものね。これを機に、少しゆっくりしてくれるといいな。

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