第19話 あの女、絶対に許さない~マルティ視点~

私の名前はマルティ・ガレイズ。元々体があまり強くなかった私は、子供の頃は領地で過ごした。さらにお父様の強い希望で、お兄様と一緒に魔力大国に1年間留学していた。特に私が力を入れさせられたのは、魅了魔法だ。


お兄様は色々と覚えさせられていたが、私はとにかく魅了魔法を完璧に覚える様にと言われた。魅了魔法なんて、何の役に立つのかしら?


よくわからなかったが、お父様の言うままに覚えさせられたのだ。そして14歳の時、王都に戻ってきた。そこで私は、運命的な出会いをはたす。そう、王太子殿下のアレホ様だ。金色の髪に緑の瞳をした、とてもお美しいアレホ様。でも、アレホ様には公爵令嬢のリリアーナ様という婚約者がいたのだ。


どんなに私がアレホ様を思っても、決して結ばれることはない。そう思っていた。でも


「マルティ、殿下に魅了魔法を使え。そうすれば殿下はお前の虜になる」


お父様がそう言ったのだ。そうか、魅了魔法を使えば、私はアレホ様を手に入れられる。そう思い、アレホ様をうまく呼び出し、魅了魔法を掛けた。


完全に私の虜になったアレホ様。私の言う事なら何でも聞いてくれる。それが嬉しくてたまらなかった。それと同時に、アレホ様の婚約者のリリアーナ様が、鬱陶しくてたまらなかった。早く婚約破棄をして欲しくて、リリアーナ様を執拗に虐めた。


いくら私がリリアーナ様を虐めても、アレホ様は私の味方。抗議するリリアーナ様を、逆に叱りつけていた。次第にリリアーナ様は、アレホ様に何も訴えなくなっていった。


「アレホ様、私、アレホ様と婚約したいですわ」


「分かっているよ!とにかくリリアーナには僕の気持ちをはっきり伝えたから、きっと近いうちに婚約破棄が出来るよ。そうしたら、すぐにマルティを婚約者するから、待っていてね」


そう言ってほほ笑んでくれたアレホ様。その言葉通り、アレホ様とリリアーナ様は無事婚約破棄したのだ。


これで王妃の座は私のもの。そう思っていたのに、一向に私と婚約を結んでくれないのだ。さらに私に意地悪な教育係を付けてくる始末。きっとリリアーナ様が陛下に頼んで、私とアレホ様を婚約させない様にしているのだわ!


あの女、ただじゃおかないのだから!


そんな中、パレスティ侯爵令息とレィストル侯爵令嬢の婚約披露パーティで、リリアーナ様に会ったのだ。ここぞとばかりに、リリアーナ様に文句を言い、髪を引っ張り突き飛ばしてやった。


そして駆け付けたアレホ様に、リリアーナ様に酷い事をされたと伝えた。アレホ様はどんな時でも私の味方だ。今回も…そう思っていたのだが、何とあの女の父親が、私たちのやり取りの映像を流したのだ。


そのせいで、私の評判は下がってしまったが、別に他の貴族にどう思われようが関係ない。アレホ様は私の虜だし、問題ない。そう思っていたのだが…


翌々日、要領の悪いメイドを怒鳴りつけていた時、急にアレホ様が部屋に入って来たのだ。さらに


「僕に魅了魔法を掛けた罪で、今から君を逮捕する!」


そう冷たく言い放ったアレホ様。どうやら魅了魔法が解けてしまった様だ。そんな…アレホ様の魅了魔法が解けない様に、定期的に魔術師を呼んで対策をしてもらっていたのに…一体どうして?


とにかくアレホ様と話がしたくて、必死に訴えたが聞き入れてもらえなかった。私たち家族は、冷たくて薄暗い地下牢に入れられた。私とお兄様は魔法が使える事もばれ、魔法封じのリングも付けさせられた。ドレスも脱がされ、ボロボロの囚人服を着せられる。


もちろん、お風呂にも入れてもらえず、野ネズミが出る様な劣悪な環境の地下牢で生活させられたのだ。


食事も固いパンと具がほとんど入っていないスープのみ。ストレスから私は見る見る痩せていった。


「こんな生活、もう嫌よ…お願い、アレホ様に会わせて」


あれほどまでに私を大切にしてくれていたアレホ様。きっと私が泣いて訴えれば、ここから出してくれるわ。そう思い、何度も訴えるが、全く聞き入れてもらえなかった。


そんな日々が、10日ほど続いたある日。


「マルティ、随分と酷い姿だね。でも、君にはとてもお似合いだよ」


私の元にやってきてくれたのは、アレホ様だ。寝不足なのか目にはクマが出来ており、目もうつろ、さらにやつれている。もしかして私の無罪を証明するために、必死に調べてくれていたのかしら?きっとそうよ!


「アレホ様、助けて下さい。この地下牢、ネズミや大きな虫が出ますの。それにお風呂にもずっと入れなくて。食事も固いパンと具無しスープだけですし。このままでは本当に、死んでしまいますわ」


ポロポロと涙を流し、必死に訴えた。


「君のその涙に僕は何度も騙されたよね。僕の心を操っていた時の気分はどうだったかい?」


今にも切りかかりそうな程鋭い瞳で、まっすぐ私を見つめるアレホ様。


「あの…私は…」


「僕はね、一刻も早く貴様を処罰するために、伯爵家にあった膨大な資料を片付けたんだよ。そのせいで少しクラクラするが、これでやっと貴様を裁けると思うと嬉しいよ…」


そう言うとニヤリと笑ったアレホ様。


「そうそう、君たちの公開処刑が決まったよ。さらに遺体は、しばらく晒されるらしい」


「そんな…あまりにも残酷ではありませんか?」


「残酷?人の心を操る方だよっぽど残酷だと思うよ。君たちの様なゴミクズが、もう二度と現れない様にするためにも、やっぱり刑は重くしないとね。せいぜい皆が見守る中、苦しみながら死ぬといい」


「そんな…私はただ、父のいう事を聞いただけです。どうかご慈悲を」


「何がご慈悲をだ!ふざけないでくれ。僕は君の事が大嫌いなんだ。見ているだけで、虫唾が走る。それじゃあ、処刑場で会おう」


そう言うと、アレホ様が足早に去って行った。


「待って…嫌よ、死にたくない。お願い、助けて!」


必死に叫ぶが、足音がどんどん遠くなる。そんな…


ショックでその場に座り込んでいると、再び誰かが近づいてくる足音が。もしかしてアレホ様が!そう思い顔を上げると


「出ろ、刑執行の時間だ!」


やって来たのは、騎士団員たちだ。そんな…


「イヤ、死にたくない。お願い、助けて…」


必死に訴えるが、手際よく縄で縛り上げられると、そのまま無理やり外に出された。


「お願い、助けて!死にたくない。私は悪くない!」


「うるさい!とにかくこっちに来い」


「いや、助けて!!!」


泣き叫びながら必死に叫んだが、引きずられるようにそのまま私は、外に連れ出された。


私は悪くない!どうして私がこんな目に合わせないといけないの?


…そうだわ、あの女のせいよ。あの女、リリアーナさえいなければ…


リリアーナ、覚えておきなさい。あなただけは絶対に許さない!私をこんな目に合わせた事、後悔させてやる!


絶対に幸せになんてさせないから…




※次回、リリアーナ視点に戻ります。

よろしくお願いしますm(__)m

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