第18話 ここからが始まりだ~アレホ視点~

山の様な書類を王宮に運び終えると、早速書類の整理に取り掛かった。いくらマルティや伯爵を逮捕し地下牢に入れたとしても、裁かれなければ意味がない。一刻も早く全ての書類を整理して、あいつらを裁きたいのだ。


僕はその日から、寝る間も惜しんで書類の整理を行った。父上や公爵も、手伝ってくれた。ほとんど眠らずに書類整理をする事1週間。


「殿下、どうか少しお休みください。このままでは殿下が倒れてしまわれますぞ」


心配そうに公爵が声を掛けてくれる。


「ありがとうございます。でも僕は、リリアーナを苦しめたあの女を、一刻も早く裁きたいのです。ですからどうか僕の事は気にしないで下さい」


「しかし…」


言葉を詰まらせる公爵を無視し、黙々と作業をこなす。そして伯爵やマルティを逮捕して10日後、全ての書類整理が終わったのだ。書類をすべてまとめ上げて分かった事は、どうやら伯爵令息とマルティは魔法大国に、密かに留学していた様だ。そして帰国の際、自分たちの友人として、堂々と魔術師をこの国に入れた様だ。


「まさか令息とマルティが魔法大国に留学していただなんて!これからは必ず王族を通しての留学以外、認めない様にしよう。それから、他国の人間の入国時は、いくら貴族からの紹介だったとしても、厳しい身元調査を行ってからにしましょう」


以前までは貴族の知り合いの場合、ほとんど身元調査を行っていなかったのだ。まさかこんなに堂々と入国させていただなんて。


自分で書類をまとめたおかげか、今後の対策を立てる事も出来た。ただ、万が一また、伯爵令息やマルティの様に、魔法が使える人間が現れたら…この件の対策も考えないといけないな。


やらなければいけない事が沢山あるが、まずはあいつらを断罪する事が専決だ。


「父上、公爵、全ての書類をまとめ終わりました。すぐにでもガレイズ伯爵一家を処罰しましょう!」


「そうだな、すぐに貴族会議を開き、彼らの処遇を決めよう。といっても、一族全員の極刑は免れないがな」


そして翌日、貴族たちが集まり、ガレイズ伯爵とその家族の処罰が話し合われた。予想通り、満場一致で一族全員の極刑が決まった。さらに二度とこのような事が起こらない様に、公開処刑かつ、遺体をしばらく晒すという残酷な判決が下ったのだ。


そしてその日の午後、刑が執行されることで話はまとまり、沢山の貴族や民たちが見守る中、刑は執行された。


「アレホ殿下、これで全てが終わりましたね。お疲れさまでした。殿下は10日間ほとんど眠らずに書類をまとめたのです。さすがに疲れたでしょう。どうかゆっくりとお休みください」


そう言って僕の肩を叩いたのは公爵だ。


「これで終わりじゃない。僕にとっては、始まりだ…あの女がこの世を去って、やっとスタートラインに立てたのですよ…」


「殿下、それはどういう意味ですか?まさかリリアーナを…」


「はい、もちろんです。僕はリリアーナを今でも愛しています。ただ、僕はリリアーナを深く傷つけました。だからこそ、これから精一杯償っていくつもりです」


「殿下、以前にもお話ししましたが、どうかリリアーナの事はお忘れください!リリアーナにとってあなた様は、もう過去の人間なのです。やっとリリアーナは笑う様になりました。食事をしっかりとれる様にもなりました。ですから、どうかリリアーナの平穏な生活を乱すような事はお止めください」


そう言って必死に僕に訴えかけてくる公爵。でも僕は…


「申し訳ない…たとえ公爵の頼みでも、これだけは聞くことが出来ないのです。リリアーナにとって、僕はもう見たくもない存在だという事は知っています。でも…どうしても諦めたくはないのです。散々傷つけてしまった分、僕が幸せにしたいのです!」


「殿下!」


「公爵がなんと言おうと、僕はリリアーナに振り向いてもらえる様に頑張るまでです。それではこれで失礼します」


公爵に頭を下げ、その場を後にする。


そう、僕にとってはこれからが始まりなのだ。もしかしたらリリアーナは一生僕の事を許してくれないかもしれない。さっさと他の男と婚約してしまうかもしれない。


それでも僕は、このままリリアーナを諦める事なんて出来ないのだ。たとえどんなに嫌われていたとしても…



※次回、マルティ視点です。

よろしくお願いしますm(__)m

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