第20話 今更そんな事を言われても…

ルミナの婚約披露パーティから早2週間。あれから本当に色々な事があった。マルティ様及びガレイズ伯爵とその家族が全員逮捕されたのだ。そしてその10日後、沢山の人が見守る中、公開処刑された。


この国ではタブーとされる魔法を使った事で、かなり注目度が高かった様で、ほとんどの貴族やたくさんの平民たちが足を運んだと聞いた。でも、私は行かなかったが。


全てが解決し、今は平和な日々を送っている。ちなみに、今回の件で一番腹を立てていたのは、殿下だったそうだ。伯爵家から押収した膨大な書類を、ほとんど寝ずに10日でまとめ上げたらしい。さらに二度とこのような事が起こらない様に、今も陛下や貴族と共に、毎日の様に会議を開いているらしい。


その為、お父様も朝から晩まで帰ってこない。


“もともと真面目な方だったから、よほど自分が魅了魔法に掛かった事が許せないのだろう。自分を痛めつける様に、がむしゃらに働いておられる。このままだと、殿下のお命が心配だ”


と、お父様がお母様に話していた話を、こっそりと聞いてしまった。


あの人は、昔から真面目だった。マルティ様の魅了魔法に掛かってから、本当に人が変わってしまったのだ。ただ…昔から私には冷たかったけれど…


て、また嫌な事を思い出してしまったわ。もう私には関係のない事。


今日もお父様は朝から王宮に出掛けて行った。私は自分宛てに届いた夜会の招待状に目を通す。有難い事に、沢山の招待状が届いているのだ。ただ、全て参加する事は出来ないので、重要度の高いものを中心に参加しようと思っている。


その中には、殿方からの招待状も多く含まれている。私の様な令嬢でもいいと思ってくれている殿方がいらっしゃると思うと、嬉しくてつい頬が緩んでしまう。


「リリアーナ、何を嬉しそうな顔をしているの?それにしても、すごい招待状ね。実はあなたと婚約したいという令息たちの家からも、連絡が来ているのよ。さすが私の娘だわ、モテモテね」


そう言って笑っているお母様。もう、人をからかって。


「今回のマルティ様の件で、私に同情する人たちが多くいらっしゃるのでしょう。それでも有難い限りですが」


マルティ様の事件を受け、殿下と共に被害を被った私に対する同情の声が多数ある事も知っている。ちなみに殿下は、全て自分の責任だから廃嫡して欲しいというのを、貴族全員で止めたのだとか。


そもそも魅了魔法は、本人では回避する事が不可能。今回の事件に関しても、殿下に同情するものはいても、殿下を悪く言うものはいないとルミナが言っていた。


「リリアーナは、これから積極的に社交界に顔を出すのでしょう?それなら、沢山ドレスを新調しないとね。実は今日、デザイナーと宝石商を呼んでいるのよ。ほら、あなたのドレスって、黄色や緑が多いでしょう…だから…」


確かに私は、殿下の色でもある黄色系や緑のドレスが多い。これを機に、ドレスを新調するのもいいだろう。


「ありがとうございます、それでしたら、今まであまり着た事の無かった色のドレスにも挑戦してみたいですわ」


お母様と盛り上がっていると…


「お取込み中のところ、失礼いたします。お嬢様、殿下がお見えです」


えっ?今なんて言った?殿下ですって?殿下は今、王宮でお父様含めた貴族たちと会議をしているのではなくって?


訳が分からないが、急用かもしれないと思い、急いで殿下の待つ客間へと向かった。お母様も心配で一緒に付いて来ている。


「殿下、お待たせして申し訳ございません。急にどうされましたか?」


部屋に入ると、少しやつれた殿下の姿が。席にも座らず、立って待っていた様だ。


「急に押しかけてすまない。どうしてもリリアーナの顔が見たくて。元気そうでよかった」


は?この人は一体何を言っているのだろう。私の顔が見たい?元気そうでよかった?


「あの…急用ではなかったのですか?」


「リリアーナ、今までの事、本当にすまなかった。今日は君に僕の気持ちを伝えたくて。僕はずっと君の事が好きだった。でも…なぜかリリアーナの前では自分を出せなくて、そっけない態度を取ってしまったんだ。それをずっと改善したくて、悩んでいる間に、魅了魔法に掛かってしまった。散々君を傷つけた僕が言うのも何だが、僕はやっぱり君の事が好きだ!今すぐ受け入れてもらえるだなんて思っていない。でも、せめて僕に、チャンスを与えてくれないだろうか?」


必死に頭を下げてくる殿下。この人は本当に何を言っているのだろう。私の事が好き?昔から私に冷たくしてきたのに?


「殿下はずっと私の事がお嫌いだったのでしょう?マルティ様が現れる前から、ずっと私にだけそっけなかったではありませんか?」


「それについては、本当に申し訳ないと思っている。僕は君が好き…すぎて…君の前に出ると妙に緊張してしまって。それでうまく話せなくて…それにあの時の僕は、何とかしないととは思っていたものの、リリアーナは既に僕の婚約者だったことあり、甘えが出ていたのも事実だ。今も正直君の前に出ると、緊張して口から心臓が飛び出そうになる。それでも僕は、リリアーナとしっかり向き合いたいんだ」


「もう私たちは婚約破棄をしております。今更向き合っていただく必要はございません。どうかお引き取り下さい。それでは失礼いたします」


殿下に頭を下げ、部屋から出ていく。後ろから


「待って…」


という声が聞こえたが、そのまま無視して部屋から出て行ったのだった。

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