第14話 けじめを付けさせてください~アレホ視点~
「陛下、どうやって魔術師が入り込んできたのか、その経路は既に突き止めていらしているのですか?たとえガレイズ伯爵とマルティ嬢を処罰しても、簡単に魔術師が入り込める環境では、我々貴族も安心して生活できません」
「そうだな…その点に関しても、おいおい対策を取って行かないといけないのだが…何分我が国は魔法が使えるものがいない。一応入国時に厳しい審査をしているのだが、どうしても紛れ込んでしまう事もある」
確かに我が国には、魔法が使える人間はいない。ただ、我が国の人間にも、体の中に魔力があると言われている。特に高貴な身分の貴族になればなるほど、魔力量は多く、直感的に魔力が使われているのか分かるのだ。
現に僕も、マルティが魅了魔法を使った直後、理解する事が出来たのだ。ただ、魔術師をこの国に入れないという事は、やはり厳しいのだろう。これは今後の課題だな。
「とにかく明日、マレステーノ公爵主導の元、ガレイズ伯爵とマルティ嬢、さらにその家族を屋敷で捕まえる予定だ。そしてそのまま、家宅捜索も行う。マレステーノ公爵、よろしく頼んだぞ」
「はい、承知いたしました」
どうやら既に、公爵には話が行っている様だ。このままいけば、ガレイズ伯爵家とマルティは、すぐにでも断罪されるだろう。でも、それでめでたしめでたしという訳にはいかない。
「皆様、先ほども申し上げた通り、私はまんまとマルティ嬢の魅了魔法に掛かり、沢山の人を傷つけました。あの時の私は、本当に横暴で相手の話を聞かないどうしようもない人間でした。そもそも、王族が魅了魔法に掛かるなど、もってのほかです。こんな私が、このまま国王になる訳にはいきません。私はこの場で、王太子及び王族の権利を放棄します!」
僕の様な人間が、このまま国王になる何て許される訳がない。僕はあろう事か、沢山の人間を傷つけて来たのだ。その上、誰よりも大切で、絶対に守りたい存在だったリリアーナを傷つけ追い詰めた。そんな僕が、国王になれるはずがない。僕はこのまま廃嫡され、1人静かに暮らすべきなんだ!
リリアーナを傷つけた十字架を背負って…
「アレホ、一体何を言っているのだ?私の子供は、お前しかいないのだぞ。アレホが王位を放棄したら、一体誰が国王になるというのだ?」
「そうよ、アレホ。落ち着いて頂戴。そもそも、魅了魔法を回避する術なんてなかったのよ」
必死に両親が僕を説得してくる。さらに…
「殿下、王妃殿下の言う通りです。本来魅了魔法を使う人間が、この国にいること自体おかしいのです。それもよりによって、王太子殿下にかけるだなんて。殿下もれっきとした被害者です」
「そうです、殿下。あなた様が国王にならなかったら、誰がなるのですか?あなた様は自分の過ちを恥じ、先ほど皆に謝罪されたではありませんか」
次々に貴族たちが、僕に王太子でいて欲しいと訴えかけてくれる。でも僕は…
「アレホ殿下、確かにあなたのしたことは、許される事ではない。私の娘は、あなたのせいで深く傷つき、命の灯が消える寸前まで追い詰められた。でも…殿下は魅了魔法に掛かっているだけ、魔法が解けるまでの辛抱!そう思い、娘の話をろくに聞かずにただ“耐えてくれ”とだけ伝え続けてきた私も同罪です。その結果娘は、全てに絶望し、修道院で暮らすことを選ぼうとしたのですから…」
修道院で暮らそうとしただって…そこまで僕は、リリアーナを追い詰めていたのだな。分かってはいたが、現実を突き付けられるとさすがに辛い。悔しくて唇を強く噛み、俯いた。
「それでも娘は、私の事を大好きな父親だと言ってくれました。こんなどうしようもない父親でも、受け入れてくれる娘の為にも、私はこれからもリリアーナの父親として彼女を支えて行くつもりです。ですから殿下も、どうか逃げないで下さい。廃嫡すると言うと、一見ケジメを付けている様に見えますが、結局は逃げているだけではないのですか?逃げるのではなく、今まで迷惑を掛けた人たちの為に、より良い国を作っていく事をお考えになってはいかがですか?」
マレステーノ公爵の言葉が僕の胸に突き刺さった。僕はケジメとして、廃嫡する事が一番だと考えていた。でも公爵の言う通り、僕は逃げているだけだったのかもしれない。僕がやらなければいけない事は、廃嫡してもらう事ではなく、もう二度と同じ過ちを起こさない様に、魔術師の密入国に関する監視の強化。さらに魔法を使った者に対する厳罰化を進める事なのかもしれない。
もう二度と、誰も傷つけないためにも…
そして今まで傷つけてしまった人たちに、誠心誠意謝罪もしないと!
「分かりました、皆さま、僕を信じてくれてありがとうございます。これからはこの国の為、精進して参りますので、よろしくお願いいたします」
皆に改めて頭を下げた。すると、温かい拍手に包まれた。僕はこの1年、酷い過ちを犯し、罪もないリリアーナを深く傷つけてしまった。
もう二度とリリアーナに合わせる顔がない、そう思っていたけれど、それは間違っていたのだ。今まで酷い事をしてしまった分、誠心誠意リリアーナに謝ろう。そしていつか許してもらえる様に、頑張ろう。
たとえどんなにリリアーナから拒否されても。
僕はやっぱりリリアーナが好きだ。もしかしたら一生許してくれないかもしれない。それでも僕は、彼女に気持ちを伝えたい。
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