第8話 私に絡むのはやめて下さい

ルミナと別れた後は、先ほどの令嬢たちと話をしたりして過ごした。さらに令息たちも、話し掛けてくれる。私は今まで、あまり令息と話した事がないから、なんだか新鮮ね。


ただ、今日は色々な人と話をして、なんだか疲れたわ。少し休憩をしよう。そう思い、中庭の奥へと向かった。そしてベンチに腰を下ろす。


本当に素敵な中庭ね。ルミナの好きな花も、たくさん植えられているし。きっと侯爵令息様が、ルミナの為に植えたのだろう。


美しい中庭を見つめている時だった。


「お久しぶりですわ、リリアーナ様」


私の前に現れたのは、何とマルティ様だ。もしかしてまた、暴言を吐きに来たのかしら?そう思ったら、つい身構えてしまう。


「私はもう、殿下とは婚約破棄をいたしました。ですから、どうか私には構わないで下さい」


そう伝え、その場を後にしようとしたのだが…


「待ちなさいよ!それならどうして、私とアレホ様が婚約出来ないのよ!アレホ様はずっと、私との婚約を陛下に話しているのに、陛下が首を縦に振らないの。あなたが陛下に何か余計な事を吹き込んでいるのでしょう?」


この人は何を言っているのだろう。そんな事、出来る訳がない。


「私は何も申しておりませんわ。とにかく私はもう、殿下の婚約者ではございませんので、これで失礼いたします」


「ちょっと待ちなさいよ!本当に癪に障る女ね。絶対にあなた、裏で陛下に何か言っているでしょう!この腹黒性悪女!本当に腹が立つ女ね」


そう言うと、私の髪を引っ張ったのだ。


「痛い…お願いです、お止めください!私は本当に何もしておりません」


「だったらどうして、私とアレホ様が婚約出来ないのよ。全部あなたのせいでしょう!」


「きゃぁぁ」


今度は突き飛ばされ、しりもちをついてしまった。


「何の騒ぎだ、一体どうしたんだい?」


やって来たのは、アレホ様だ。


「アレホ様、リリアーナ様が酷いのです。自分が婚約破棄されたのは、全部お前のせいだと言って、私に酷い暴言を吐いてきて」


「何だって!リリアーナ、君は一体どういうつもりだ?もう君は僕の婚約者でも何でもないのに、マルティに暴言を吐くだなんて」


私に向かって怒鳴りつける殿下。さすがに腹が立ってきた。


「お言葉ですが殿下、私は何も言っておりませんわ。マルティ様が“自分と殿下が婚約出来ないのは私のせいだ”と、言いがかりをつけて来ただけでなく、髪を引っ張り突き飛ばしたのです!」


真っすぐ殿下を見つめ、そう告げた。


「嘘を付くな!マルティがそんな酷い事をする訳がないだろう!この性悪女が!」


涙を流すマルティ様の腰を抱き、アレホ様が私に暴言を吐いている。


「一体何の騒ぎですって、リリアーナ、一体何が起こったんだ。髪が乱れているし、ドレスも汚れているではないか?」


お父様とお母様が私たちの元にやって来たのだ。他の貴族たちも集まってきている。


「この女が、僕の大切なマルティに酷い暴言を吐いたのだ!公爵、君は娘に一体どういう躾をしているのだ!」


「いいえ、違います。マルティ様が私に酷い暴言を吐き、髪を引っ張り突き飛ばしたのです!」


「嘘を付くな!マルティがそんな事をするはずはない!」


「嘘を付いているのはどっちか、調べればわかります。リリアーナ、ブローチを渡してくれるかい?」


お父様が急にそんな事を言いだしたのだ。確かこのブローチは、今朝お父様から貰ったものだ。よくわからないが、ブローチをお父様に渡した。


「このブローチには録画機能が付いているのです。リリアーナは今まで、殿下に酷い扱いを受けていたので、念のため付けさせていたのです。それでは再生しますね」


そう言うと、お父様がブローチを特殊な機械に差し込み、再生させたのだ。そこには、立ち去ろうとする私を執拗に追いかけ、暴言を吐き、暴力まで振るっているマルティ様の姿が映し出された。


「嘘だ…こんなのは…嘘に決まっている…」


映像を見た殿下が、明らかに動揺し始めた。そして頭を押さえ、うずくまってしまったのだ。


「殿下、あなた様がマルティ様の事を信じたい気持ちは分かります。でも、これが真実です。あなたとマルティ様が婚約しようがしまいが、私にはもう関係ありません。ただ、この様な事をされるのは迷惑です。どうか二度と私に絡まない様に、マルティ様にお伝えください」


はっきり殿下に告げた。もう私は、殿下にもマルティ様にも振り回されたくないのだ。


「今回の件は、ガレイズ伯爵家に正式に抗議をさせてもらうから、そのつもりで。さあ、リリアーナ、帰ろう。髪もグチャグチャだし、ドレスも汚れてしまったね」


「はい、分かりましたわ。ただ…」


近くで様子を見ていたルミナとパレスティ侯爵令息様の元に向かう。


「ルミナ、パレスティ侯爵令息様、あなた達の大切な婚約パーティを台無しにするような事件を起こしてしまい、本当にごめんなさい。パレスティ侯爵令息様、ルミナは本当に優しくて素敵で、私の自慢の幼馴染兼従姉妹です。どうかルミナの事を幸せにしてあげて下さい。それから皆様も、お騒がせしてごめんなさい」


周りにいた貴族たちにも、深々と頭を下げた。


「リリアーナが謝る事じゃないわ。今日は来てくれてありがとう。それから、嫌な思いをさせてごめんなさい」


「リリアーナ嬢、ルミナの事を気にかけてくれてありがとう。また我が家にも遊びに来てくれ」


「ありがとうございます、それでは私はこれで失礼いたします」


2人に頭を下げ、そのままパレスティ侯爵家を後にしたのだった。

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