第6話 無事婚約破棄出来ました
「さあ、立ち話もなんだ。非常に残念だが、婚約破棄の手続きを行おう」
陛下と王妃様、両親と一緒に王宮の中に入った。そして、婚約届にサインをしたときと同じ部屋に入る。
そこには不機嫌そうに私を睨んでいるアレホ様の姿が。
「わざわざ僕を呼び出しておいて、随分と待たせるのですね。僕は一刻も早く、愛するマルティの元に向かいたいのです」
「アレホ、なんて口の利き方をするのだ。今日マレステーノ公爵と夫人、さらにリリアーナ嬢に来ていただいたのは他でもない。リリアーナ嬢とアレホの婚約を破棄するためだ!」
「やっと僕とこの女の婚約が解消されるのですね。それならそうと、早く行ってください。いやぁ、めでたいな。この女と婚約を解消した暁には、ぜひマルティとの婚約を進めて下さい。僕はもう、マルティ以外の令嬢に興味がないのです!」
相変わらず言いたい放題のアレホ様。私の事をついにはあの女呼ばわり…さすがの両親も、顔が引きつっている。
「陛下、殿下はここまで我が娘の事を嫌っていたのですね!それじゃあ、早速婚約破棄の書類にサインをしていきましょう」
笑顔だが明らかに怒っているお父様。顔に青筋が出ている。お母様も扇子で口元を隠しているが、扇子が今にも折れそうなくらい強く握られている。
「公爵の言う通り、さっさとサインをしてしまおう。まずは僕からサインをするよ」
今まで見た事がないほど嬉しそうな顔で、アレホ様がサインをした。アレホ様から奪い取る様に次にサインをしたのは、お父様とお母様だ。その後陛下と王妃様、私もサインをした。
「それでは今この場を持って、アレホとリリアーナ嬢の婚約破棄をしたという事でいいな?」
「はい、もちろんです!やっとこの女から解放される!」
全身全霊で喜びを表現するアレホ様。そんなに喜ばなくても…て、私の事を大嫌いな殿下だもの。当たり前といえば当たり前よね。
「それじゃあ僕は、今日という素晴らしい日を、マルティに報告して参りますので、これで失礼いたします」
そう言って部屋から出て行こうとするアレホ様…いいや、もう婚約者でも何でもないのだから、殿下呼びをしないといけないわね。アレホ殿下を、お父様が呼び留めた。
「お待ちください、殿下。それほどまでに我が娘の事をお嫌いでしたら、もう二度と娘には近づかないと、一筆書いていただけないでしょうか?」
急にお父様がそんな提案をしたのだ。
「公爵、一体何を…」
「アレホ殿下がそこまで娘の事がお嫌いなら、ぜひ一筆書いて欲しいと思いまして。もちろん、我が娘にも二度と殿下には近づかない様に、一筆書かせますので」
「もちろん、構わないよ!リリアーナも書いてくれるのだよね。そうしてもらえると有難い。早速お互い書き合おう」
嬉しそうにペンを持つアレホ殿下を、必死に陛下が止めている。
「公爵、本当にアレホがすまなかった。とにかく婚約破棄をしたのだから、いいではないか?な、公爵。さあ、もう今日は帰ってくれ。ほら、アレホもマルティ嬢が待っているのではないのか?早く行ってやれ」
「陛下!!」
「とにかく、婚約破棄をしたのだからいいだろう?公爵も夫人も、リリアーナ嬢も、本当にすまなかった。それではこれで」
そう言うと、私たちを無理やり部屋の外に出した陛下。一体陛下は何を考えているのだろう。お父様も同じことを思ったのか
「陛下、ここを開けて下さい。私は殿下に一筆書いてもらわないと気が済まない!陛下」
ドンドンドアを叩くお父様。さすがに迷惑だろう。
「お父様、私たちは正式に婚約破棄が出来たのですから、もういいではありませんか?殿下が私に近づく事なんて、絶対にありませんわ。私も殿下には近づくつもりもありませんから。もう帰りましょう」
「…リリアーナがそう言うなら、分かったよ」
お父様も諦めた様で、3人で王宮を後にする。馬車に乗り込んだ瞬間。
「リリアーナ、本当にすまない。まさか殿下が、あそこまで酷い男になっていただなんて…魅了魔法のせいだとわかっていても、腹が立つことこの上ない。リリアーナは1年もの間、ずっとあの暴言に耐えてきたのだな。私は何も見えてなかった。父親として失格だ」
「それを言うなら私もよ。あんな事を言われ続けていたら、リリアーナの心が壊れてしまうのも無理はないわ。たとえ魅了魔法が解けたとしても、あんな男に大切なリリアーナを差し出す事は出来ないわ。いくら親友の子供でも、許せることと許せない事があるもの。リリアーナ、本当にごめんなさい」
お母様が涙を流して抱きしめてくれた。そう言えば両親がいる前でアレホ殿下が私に何か言うのは、今回が初めてだ。さらにマルティ様からは嫌がらせを受けていただなんて、今の両親には口が裂けても言えない…
「お父様もお母様もどうか自分を責めないで下さい。それに私は、お父様とお母様に私の辛さを理解してもらえただけで、とても嬉しいですわ」
「リリアーナはなんて優しい子なんだ。しばらくは屋敷でゆっくりしなさい。夜会やお茶会には無理して出なくてもいいから」
「ありがとうございます。そうですわね、少し疲れましたので家でゆっくり過ごしたいですわ」
さすがに色々とあって、疲れた。しばらくは屋敷でゆっくり過ごしたいのだ。
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