第5話 心が軽くなりました
翌日、お父様は朝早くに王宮へと出かけて行った。
昨日両親から婚約破棄の了承を得たことで、心が随分と軽くなり、昨日の夜から少しずつ食事が出来るようになった。
そんな私を見た両親が
“本当にすまなかった。私達のせいで、君をここまで追い詰めてしまったのだね。婚約破棄が正式に決まったら、もうリリアーナが思う様に生活してもらって構わない。誰とも結婚したくないというのなら、それでもいいし。もし気になる殿方が出来たら、お相手に私たちから話しをするから。もう二度と、リリアーナの心を無視する様な酷い事をしないから、安心して欲しい”
そう言われた。これからは私の思う様に生きていいか…正直ずっと今まで、アレホ様の婚約者として生きて来たから、自由に生きろと言われても分からない。でも…しばらくはゆっくりしたいと考えている。
私が今、こんなにも穏やかな気持ちでいられるのは、修道長様のお陰だ。彼女が両親に話しをしてくれたから、両親も私の気持ちを理解してくれたのだ。
お父様を見送った後、私も着替えを済ませて馬車に乗り込む。
「リリアーナ、一体どこに行くつもりなの?」
不安そうにお母様が訪ねて来た。
「修道長様にお礼に行こうと思いまして。彼女のお陰で、私はやっと自由になれるのです。本当に修道長様には感謝しかありませんわ」
「それなら、私も一緒に伺うわ。修道長様のお陰で、私たちは自分たちの過ちに気が付く事が出来たの。私達はもう少しで、大切な娘を失っていたかもしれないと思うと、本当に背筋が凍り付くほどぞっとしたのよ。私からも、お礼を言いたいわ」
「それでは一緒に参りましょう」
お母様も一緒に、修道院へと向かった。
「修道長様、昨日は本当にありがとうございました。お陰で、両親も私の気持ちを理解してくださいましたわ」
「そう、それは良かったですわ。リリアーナ様、今まで辛い思いをした分、どうか幸せになってくださいね。それから、辛い事があったら、いつでも修道院に遊びに来てください。私はここで待っていますから」
そう言ってほほ笑んでくれた修道長様。本当に素敵な方だ。お母様も何度も修道長様にお礼を言っていた。さらに我が公爵家から、こちらの修道院に援助する事も決まった。
修道長様にお礼を言った後、一度屋敷に戻り昼食を頂いた。まだまだ食べる量は多くないが、それでもパンとスープ、サラダを食べる事が出来た。
そして王宮に出向くため、ドレスに着替える。今日のドレスは、私の瞳の色に合わせた青いドレスだ。昨日まではアレホ様の瞳の色を意識して、緑色のドレスを着ていたが、もう二度と緑色のドレスを着るつもりはない。
さあ、準備は整った。早速お母様と一緒に、王宮へと向かうため馬車に乗り込む。
「リリアーナ、あの…本当に殿下と婚約破棄をしてもいいのね?あなた、殿下と婚約を結んだとき、本当に嬉しそうだったから…その…」
お母様が言いにくそうに問いかけて来た。確かに私は、アレホ様と婚約を結んだとき、嬉しくてたまらなかった。私はずっとアレホ様の事が好きだったのだ。でも…そんな気持ちも、もうすっかり消え失せた。今はとにかく、彼には二度と関わりたくない。だたそれだけだ。
「もうアレホ様の事は、これっぽっちも好きではありません。むしろ、二度と関わりたくないと思っております。お母様、私がもっと強かったからきっと、アレホ様の婚約者で居続けられたのに。ごめんなさい…」
「どうしてリリアーナが謝るの。悪いのは私達よ。今まで散々辛い思いをさせてしまって、本当にごめんなさい。リリアーナ、愛しているわ」
「私もお母様の事が大好きですわ…」
そう言って笑顔を作った。
そんな話をしている間に、王宮に着いた。馬車から降りると先に来ていたお父様、さらに陛下や王妃様まで待っていたのだ。
「リリアーナ嬢、アレホが本当にすまなかった。まさか修道院に入りたいと言うほど、君が追い詰められていただなんて…」
「リリアーナちゃんから笑顔が消え、日に日にやつれていく姿を見ていたのに。見て見ぬふりをしてごめんなさい。私達はついアレホ可愛さに、あなたを犠牲にしていたのよね。結局私たちは、リリアーナちゃんの心を壊してしまった。本当に、何とお詫びを言えばいいのか…」
そう言って陛下と王妃様が頭を下げたのだ。王妃様の“アレホ可愛さにあなたを犠牲にした”という意味は分からないが、どうやら2人も婚約破棄に賛成してくれている様な口ぶりだ。
「お2人とも、頭をお上げください。私にも至らない点があった事は重々承知しております。この様な形になってしまい、申し訳ございませんでした」
改めて私も、2人に謝罪した。
「リリアーナちゃんが謝らないで。悪いのはこっちなのだから。こんな事を言っては図々しいと思われるかもしれないけれど、私はリリアーナちゃんの事を、本当の娘の様に思っているの。アレホと婚約破棄しても、また王宮に遊びに来てくれると嬉しいわ。もちろん、リリアーナちゃんの気持ちが落ち着いてからでいいから」
「ありがとうございます。心が落ち着き機会がございましたら、お茶でも致しましょう」
私の事を実の娘の様に可愛がってくれている王妃様。ただ、やはり私は、王族とはもう関わりたくはないのが本音だ。その為、言葉を濁しておいた。
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