第4話 両親と話し合いました

「分かりました…もう一度娘としっかり話し合ってみます。そのうえで、修道院に入れるかどうか決めさせていただくという事でよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです。もし修道院に入るという事でしたら、こちらの書類にサインを頂いた上、修道院にお越しください。リリアーナ様、私はあなたの幸せを心より願っております。どうかあなた様にとって、いい方向に進むといいですね」


「ありがとうございます、修道長様」


私に微笑みかけると、そのまま一礼して去っていく修道長様。なんて素敵な女性なのかしら?私も彼女の様に、困っている人に手を差し伸べられるような人になりたい。


「リリアーナ、本当にすまなかった。君がそこまで追い詰められているだなんて…私は目先の事しか考えていなかった。よく考えたら、リリアーナはここ数ヶ月で、びっくりするほどやつれてしまったのに。それなのに私は…」


「リリアーナ、本当にごめんなさい。でも、分かって欲しいの。私達は決してあなたを政治の道具にしようとした訳ではないのよ。あなたの未来の幸せを考えて行動していたの。でも、そのせいで今のあなたの命の灯を消してしまったら、意味がないわ」


お父様もお母様も泣いていた。2人の涙を見た瞬間、どうしようもないほど胸が痛んだ。でも…もう私は、これ以上は無理なのだ。


「私の方こそごめんなさい。でも…もう無理なのです。どうか私を、自由にして頂けないでしょうか?お願いします」


お父様とお母様に向かって頭を下げた。


「分かったよ、リリアーナ。ただ…今の状況を少し話してもいいだろうか?本当はこの話しは、全てが解決してからしようと思っていたのだが、致し方ない」


お父様が深呼吸をした。一体何の話があるというのかしら?


「実は殿下は今、魅了魔法を掛けられているのだよ。掛けたのはもちろん、マルティ・ガレイズ嬢だ。ガレイズ伯爵家はあろう事か、魔法大国から魔術師を連れてきて、この国では禁止されている魔法を使った。既にある程度の証拠はそろっていて、近々ガレイズ伯爵家及び、マルティ嬢を断罪する予定だ。ただ、魅了魔法を解くための手配が今遅れていて。それでも来月には全て片付く予定でいるんだ。魅了魔法が解ければ、殿下も元に戻るはずだ!だからどうかそれまで耐えて欲しいと、陛下と王妃殿下に泣きつかれてね。でも、ここまでリリアーナが傷つき苦しんでいるのなら、私たちは婚約破棄を進めようと思っている」


なんと!アレホ様は魅了魔法に掛かっていただなんて。


でも…


「たとえ魅了魔法が解けたところで、あの人は私を愛する事はないと思いますわ。だって、マルティ様が現れる前から、私に冷たかったですもの。それに私、この1年でもうアレホ様に対する愛情も、すっかり枯渇してしまいました。たとえ魅了魔法が解けても、私は幸せになれないと思っております。もうアレホ様に関わりたくはないのです。どうか私を、修道院に入れて下さい。そこでひっそりと暮らしたいのです」


魅了魔法が掛けられていたとか、そんな事はどうでもいい。私はもう、彼には関わりたくないし、何よりこれ以上傷つきたくないのだ。私を睨みつける冷たい眼差し、マルティ様に向けられた愛おしそうな顔、正直言って、あれが魅了魔法が原因とは思えない。


きっとあれが、本来のアレホ様の姿なのだろう。


「リリアーナがそこまで言うのなら、分かったよ。すぐにでも婚約破棄を進めよう。ただ、修道院に入るのだけはどうか諦めてくれないかい?婚約破棄をしたら、君の思うがままにしてもらって構わない。だからどうか、これからもこの公爵家で、私たちの傍で生活をして欲しい。今までリリアーナを傷つけてしまった分、償いをしたいと考えているんだ」


「お願い、リリアーナ。どうか修道院に入るのだけは辞めて頂戴。あそこに入ったら、もう二度と会えなくなってしまうわ。そこまであなたを追い詰めたのは、私達だという事も理解している。でも…それでも私たちは、あなたを愛しているの。あなたには今まで散々傷つけてしまった分、令嬢としての普通の幸せを味わってほしいの」


お父様とお母様が必死に訴えかけてくる。私はもう、普通の令嬢としての幸せなんて望んでいないのだが。でも、両親の必死に訴える姿を見たら、これ以上我が儘は言えない気がした。


「分かりましたわ…アレホ様とさえ婚約破棄させていただければ、私は満足です。ですので、どうかよろしくお願いします」


「わかったよ、それじゃあ、明日早速王宮に出向いて、婚約破棄の手続きを進めよう。私は先に王宮に出向き、話しをしておくから、午後から母さんと一緒に、王宮に来てくれるかい?」


「分かりましたわ。よろしくお願いいたします」


お父様に頭を下げた。


これでやっと婚約破棄が出来る!そう思ったら、嬉しくて涙が止まらなかった。

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