第3話 修道長様が話を聞いて下さいました

お父様を見送った後、私も馬車に乗り込み、修道院へと向かった。


「あの、すみません。私をこの修道院に置いていただけないでしょうか?」


修道院に着くなり、すぐに修道女を捕まえ、ここに置いてもらえないか頼んだ。すると、すぐに修道長様を呼んでくれた。


「先ほど修道女に話しを聞いたのですが、この修道院に置いてもらいたいとは、一体どういう意味でしょうか?見た感じ、とても高貴なご身分の方の様に見受けられますが」


困惑した表情の修道長様。


「私は、リリアーナ・マレステーノと申します。今の状況が辛くて辛くて、このままでは生きる事すら諦めてしまいそうで…それですべてを捨てて、修道女になりたいと思ってここに参りました。どうか私を、ここに置いていただけないでしょうか?私は確かに公爵令嬢で、自分の事も自分でできません。でも、一生懸命覚えますから。どうかお願いします」


修道長様に必死に頭下げた。


「あの、もしよろしければ、詳しくお話をお聞かせいただけますか?」


修道長様が別室に案内してくれた。私は今までの経緯を詳しく話した。辛くて途中で涙が止まらなかったが、そんな私の背中を優しく撫でて下さる修道長様のお陰で、なんとか話し終えた。


「随分とお辛い思いをされたのですね。それにかなりやせ細っていらっしゃいますし…お可哀そうに。分かりましたわ、私から公爵様にお話しをさせていただきましょう」


「えっ?父にですか?でも…」


お父様に話しをしたら、きっと反対されるだろう。そうなったら、修道院には入れなくなってしまう。


「実は16歳以下の貴族が修道院に入院する場合は、お父様かお母様の同意書が必要になるのです。ですから、一度公爵様に話しをいたしますわ。大丈夫です、あなた様の気持ち、私からしっかりお伝えさせていただきますから。リリアーナ様が、これほどまでに追い詰められていると知れば、きっと公爵様も動いて下さるでしょう」


「分かりました、ありがとうございます、修道長様」


泣きながら修道長様に頭を下げた。


「それでは夕方にでもお伺いさせていただきますので、あなた様は一旦お屋敷にお帰り下さいませ」


「はい、よろしくお願いします」


修道長様に話しを聞いてもらった事で、心が少し軽くなった。ただ、お父様が私を本当に修道院に行かせてくれる可能性は低い気がする。それでも自分で行動を起こせた事、話しを親身になって聞いて下さる方がいらっしゃった事が嬉しかったのだ。


お父様もお母様も私の話をろくに聞かず“もう少しだから耐えてくれ”ばかりだもの。本当に嫌になるわ。


屋敷に戻ると、お母様が心配そうな顔で飛んできた。


「リリアーナ、よかったわ。黙って出かけるから心配していたの。今日はね、あなたの好きな、ブドウゼリーを料理長が準備してくれたのよ。少しでも食べない?」


「せっかくなので、頂きますわ」


少し心が軽くなった事もあり、ブドウゼリーを頂いた。


そして夕方、約束通り修道長様が訪ねて来てくださったのだ。お父様とお母様は目を丸くして固まっていたが、客間に通していた。


「突然お伺いして申し訳ございません。今日リリアーナ様が、我が修道院を訪ねていらして、“どうか自分をこの修道院に置いて欲しい”と懇願されました。ただ、リリアーナ様は15歳との事。それで、ご両親に同意書にサインを頂きたく、やって参りました」


そう言うと、修道長がスッと紙を差し出したのだ。


「リリアーナが、修道院に入りたいですって…リリアーナ、本当なのか?」


「はい、私はもう、何もかもが嫌なのです。このままでは生きる事すら諦めてしまいそうで。ただ、公爵家にとって私が王妃になるという事は、今後の公爵家の繁栄にも繋がる事は分かっております。だからこそ、私はこの家の為に犠牲にならなくてはいけない事も、分かっております。でも…もう限界なのです。どうか私を、自由にして頂けないでしょうか?親不孝な事を言っている事は分かっております。でもこのままでは、私はもう生きる事すら…」


「待ってくれ!リリアーナ。君をそこまで追い詰めていただなんて…本当にすまない。私達は、公爵家の権力を維持する事なんて考えていない。ただリリアーナに、幸せになってもらいたかっただけなんだ」


「お言葉ですが公爵様。今のリリアーナ様を見て、何も感じられないのですか?あきらかにやせ細り、今にも命の灯を消してしまいそうです。それでも彼女は生きるために、今までの生活を捨ててまで修道女になりたいとおっしゃった。それほどまでに、彼女は追い詰められているのです。どうかもう、リリアーナ様の幸せの為にも、自由にしてあげてはいかがですか?」


修道長様の言葉に、お父様は俯き、お母様は涙を流していた。私も涙が溢れ出す。

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