第2話 これからずっと地獄が続くなら修道女になった方がマシです

結局お父様も、私の話を聞いてくれないのね。いつも私の事を誰よりも大切に思ってくれていると言っているのに…


何となく分かっていた。私が何度もアレホ様とマルティ様の事を訴えても、あまり相手にしてくれなかったのだ。結局お父様も、私の気持ちよりも私を王妃にする事の方が大事なのだろう。


フラフラと自室に戻ってきた私は、そのままソファに腰を下ろす。


「お嬢様、大丈夫ですか?すぐに紅茶を入れますね」


私を心配して、紅茶を入れてくれたのは、専属メイドのソフィーだ。


「ありがとう、ソフィー。でも今は、何もいらないわ」


もしこのままアレホ様と結婚したら、私はずっと惨めで寂しい日々を過ごすことになるのね。アレホ様は私を憎み嫌っているのだから…


独りぼっちで、ずっと王宮で暮らすのか…


考えただけで、涙が出る。どうして私がこんな思いをしなければいけないのだろう。友人たちは婚約者に愛され、幸せそうに過ごしているのに。それなのに私は…


気が付くと涙が溢れていた。


「お嬢様、ご夕食のお時間です」


気が付くと辺りは暗くなっていた。


「ごめんなさい、今日は食欲がなくて…」


「ここのところ、ろくに食べていらっしゃらないではありませんか?このままでは、お嬢様が倒れてしまいますわ。どうかお食べ下さい。食堂に行くのが嫌でしたら、私が食事を運びますわ。ですから、どうか…」


「ありがとう。でも、本当に食欲がなくて。食べても吐いてしまうから…」


ストレスからか、食べても吐いてしまうのだ。そのせいで、体重も随分落ちてしまった。このままずっと何も食べなければ、楽になれるかしら?ついそんな事を考えてしまう。


「こんな辛い生活を送るくらいなら、いっその事修道女にでもなった方が、幸せに暮らせるのかもしれない…」


そうよ、修道女になればいいのだわ。たとえ私が王妃になったとしても、私には王太子を産むことはできない。子供も産めない王妃と、他の貴族たちから陰口を叩かれるだろう。


そうなれば我が公爵家だって、肩身が狭い思いをするのは目に見えている。それならいっその事、私が修道女になれば、嫌でも婚約破棄が出来る!


これ以上アレホ様に目の敵にされ、マルティ様に虐められる生活を送るくらいなら、不自由な生活になったとしても、修道女になった方がずっといい。


お父様に話してもきっと反対されるだろう。それなら、明日自分で王都にある修道院に出向いて、修道女にしてもらえる様に頼んでこよう。


この地獄から解放されると思ったら、なんだか心が軽くなった。


さあ、もう今日は寝よう!そう思い、ベッドに入ったのだが…


「リリアーナ、今日も食事を摂らないだなんて…食べられそうなものを言ってくれ。すぐに料理長に言って作らせるから」


「リリアーナ、大丈夫?このままだとリリアーナの体が心配だわ」


「姉上、大丈夫ですか?少しだけでも食べて下さい」


私を心配した両親と弟のリヒトが、様子を見に来てくれた。でも…


「私は大丈夫ですわ。食べても吐いてしまいますので、どうか放っておいてください。私はもう休みますので」


そう言って布団を頭までかぶった。私の体を心配してくれるなら、どうか婚約破棄を受け入れて欲しい。そう言いたいが、ぐっと我慢した。


「わかったよ。ゆっくりお休み」


そう言って去っていく両親やリヒト。正直家族に心配をかけてしまい、申し訳なく思っている。でも、もう私は限界なのだ。これ以上この状態が続けば、きっと私は生きる事を諦めてしまうだろう。


そうなる前に…生きる希望を失わない前に、殿下やマルティ様から距離を置きたいのだ。


とにかく、今日はもう寝よう。


そう思い、必死に瞳を閉じたのだった。



翌朝、今日も食欲がわかず、朝ご飯を食べる事はなかった。


「リリアーナ、すっかりやつれてしまって…食べられるものだけでいいから、どうか食事をしてくれ。それから今日は王宮に出向いて、今後の事を話し合ってくるから。リリアーナにとって、いい方向に向くように今動いている。どうかもう少しだけ、待ってくれ。それまでは、王宮に出向かなくてもいい様に、私から陛下に話しをしておこう」


そう言ってお父様は出掛けて行った。いい方向に向く訳がない。もしかして、マルティ様を無理やり追い出すのかしら?そんな事をしたら、増々私が、アレホ様から嫌われてしまうだろう。


お父様がどう頑張っても、私とアレホ様が結ばれることは、二度とないのだから…

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