第15話

 出勤時、会社近くの路上でのことだった。

 複数の通行人が、何やらザワザワと騒いでいる。

 近くまで寄ってみると、全員の衣服がボロボロに裂けていて切り傷を負っている者もいた。


「だ、大丈夫ですか? どうしたんですか?」

 俺はその中の男性の一人に声をかけた。

 すると、彼自身も何が起こっているのか分からない様子で「いや、それが……」等と、言い淀んでいる。


「もしかして通り魔ですか? 怪我をされているみたいですし、救急車を呼びましょうか? あと警察も……」

 俺がスマホを操作しながら尋ねると、彼は頭を振ってそれを断った。


「い、いや、傷は大したことないんです。それに通り魔にやられた訳でもなくて。ただ……歩いていたら、何も無いのに突然服や身体が切れたんです……」

 俺は、それを聞いて思い浮かんだことがあった。

 男性も同じだったようで、一言呟いた。「――かまいたち」と。

 話しには聞いたことがあったが、俺も見るのは初めてだった。


 突然のことでしばらく騒いでいた他の人達も、衣服は破けているが傷そのものは大したことが無かったので、結局諦めて、それぞれがその場を離れようとした。

 だが、その時だった。

 ゴトンと音を立てて、歩道と車道を隔てるガードレールが真っ二つに割れて崩れ落ちた。

 しかし、そこには誰もいない。何も無い。何の前触れも無く、いきなり破壊されたのだ。

 一瞬静まり返ったその場が、次の瞬間には悲鳴で溢れ返った。


 逃げ惑う人々の周りでガードレールのみならず、ビルの壁や窓ガラス、アスファルトの地面までもが次々と破壊されていく。

 それらは、まるで鋭利な刃物で切り取られたかのように滑らかな断面を残している。

 破壊は次第に人々へと向けられていき、その衣服や皮膚を切り裂き始めた。

 激しい悲鳴と血飛沫が舞い上がる。

 しかしよく見ると、それはギリギリで致命傷には至っていなかった。

 微妙に急所を外れていた。

 固い壁やガラスを真っ二つにする威力があるのにも関わらず、破壊は薄皮を剥がすようにして人々の身体に細かい傷を付け続けている。


「なんだ……? ……ま、まさか、弄んでいるのか……? い、いや……それよりも!!」

 俺は咄嗟に松葉を一噛みすると、破壊から人々を遠ざける為、その場にいる全員を高速移動で乱暴に突き飛ばした。


 だが、破壊はそれらを追いかけるようにして急激にその範囲を広げた。

 まるで逃げ惑う人々の反応を楽しんでいるかのように。

 明らかに意志を持っているとしか思えなかった。

 自らの意志で破壊活動を行う者が、かまいたちのような自然現象である筈が無い。


「だ、だが……それなら、これは一体何だと言うんだ……?!」

 悠長に考えている暇は無かった。

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