第12話
「ここでは少し目立つし、カフェにでも入ろうか」
沢木はそう言うと、勝手に歩き始めた。
この時間帯、会社近くで開いている店は二十四時間営業の喫茶店だけだ。
そこは昼休みになると社員がよく利用していたが、
社内でロクに親しい人間がいない俺は殆ど入ることが無い。
妙に小洒落た外観や内装もあまり俺の好みでは無かった。
店に着くと、俺達は入口から一番奥の壁際の席へと座った。
「沢崎くんも、コーヒーでいいよね」
俺の答えを待たずに沢木は店員を呼ぶと、二人分のコーヒーを注文した。
「さて、何から話そうか」
沢木は薄く笑いを浮かべながら俺に向かって言った。
女子社員からすればこのニヤケ顔が格好良いということになるのだろうが、
俺にとっては神経を逆撫でされること以外には何の効果もなかった。
「お前は……一体何者だ。俺が水原さんを助けた後、何があった?」
沢木を睨みながら俺は端的な質問をした。
「君はあの時、自らを覚醒させて水原さんを助けた。
だが、初めて力を使う君は暴走しかけていた為、
監視者である僕が強制的に君の意識をブラックアウトさせたんだよ。
水原さんは気絶していて君のことは見ていないし、犯人達は麻薬中毒だったから、
後始末はどうにでも誤魔化せたのさ。君だって半分バッタの化け物のような自分の姿を
世間に知られたくはないだろう。それに」
「ち、ちょっと待て。監視者って何だ。それに、半分バッタの化け物……??」
矢継ぎ早に話される内容に理解できないことが多すぎて、
俺は沢木の言葉を途中で遮るように聞いた。
「バッタというのは、君も身に覚えがあるはずだ。子供の時のことを忘れてはいないだろう?
あの時君はバッタ細胞と融合を果たして、次世代のバッタマンとしての使命を背負わされていたんだ。
そして僕は言わばその成りそこないさ。だから監視者として君のサポートにまわっている」
沢木の言葉を聞いて、俺は二の句が継げなかった。
確かに子供の時のことは覚えている。
草むらに惹かれるようになったのもそのせいであることは間違いない。
草を食むことで、犯人達に対する恐怖心を草むらにいる時のような昂揚感で
打ち消せるのではないかと思い利用し、その思惑が的中した。
身も心も激しい喜びに包まれた俺は、犯人達を撃退することに成功したのだ。
だが……。
「君が半分バッタの化け物の姿になったのは、覚醒がまだ完全ではないからだ。
昂揚感を充分にコントロール出来ていないことで起きる現象でもある。
それを制御できるようになれば、完全に人間の姿のままで力を発揮することが可能だ。
君が幼少の頃に見た巨大なバッタの化け物がいただろう。
あれは逆に力が衰えたことで人間の姿を維持できなくなったバッタマンなんだよ」
「沢木……一つ聞いていいか」
俺は一呼吸して静かに言った。
「なんだい、沢崎くん?」
「バッタマンって……何チャンネルでやっているんだ……?」
その瞬間、二人の間に沈黙が訪れて店内にかかるBGMだけが穏やかに流れた。
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