メリーの葛藤
今日は結局学校をサボった
アンドロイドと記憶勝負のトランプゲームなんかするのは世界中でも美月様くらいでしょう。
「おやすみ、メリー。今日は子守唄を歌ってくれないの?」
「おやすみなさい、美月様。そんなもの歌ったことないでしょう?」
他愛もない会話をし、美月様を寝かしつけると、私は勉強を始めます。
アンドロイドは睡眠は3時間もあれば十分なので、家事が終わって空いた時間は思い出を振り返ったり、勉強したりしています。
美月様はあんなですが賢く、会話相手にも相応の知識が要求されます。
もちろん、私はヒトと違って一度覚えたことを忘れないので、知識量では美月様を凌駕していますが、それでも知識をアップデートし続けて少しでも会話を楽しんで貰うべく努力しております。
それは、アンドロイドとして当然のことでもありますが、それ以上の理由もあります。
私は美月様が一人の女性として好きです。
私と同じ型のアンドロイドは家族に向けるのと近い感情を所有者に対して抱くようプログラムされています。
しかし、美月様はそのプログラムを排除し、所有者に対して自由な感情を抱けるように書き換えてくださいました。
曰く、「あらゆる機能の制限はない方が良いね。」とのことです。そのおかげで今の感情が持てております。
そういうところに惚れたのか、単純に接触機会が多いのか、アンドロイドとして美月様のことを学習しているからかは分かりませんが、とにかくお付き合いしたいです。
実はこの感情に気づいてからは美月様との会話は全て録音し、映像も殆ど録画しています。
録音や録画の機能は元からあるものですが、活用方法は私の趣味です。
流石にメモリの問題ができてしまってきていますが、思い出を圧縮したくもないので、美月様には早く大容量なメモリを私のために作ってほしいものです。
しかし、困ったことが一つあります。
法律的……には問題はありますが、美月様なら気にしないでしょう。
それよりももっと深刻な問題です。
私は美月様の学習を続けた結果一つの事実に気づいてしまいました。
美月様は自分に惚れる人が好きではない、と。
いつも自信満々に振舞い、私や他の女性を口説きにかかる美月様。
しかし、本当は自分に惚れるような人物ではなく、自分に靡かないような女性が好きだということ。
そのことを理解してしまいました。
なんと面倒くさい性癖なのでしょう。
私には「他人の表情や行動を学習して、その人間が求めることをする」という本能があります。
美月様はあらゆる制約を取り払ってくれましたが、これだけは私の根幹なので外さないでほしいとお願いし、残してもらいました。
なので、私は美月様の口説きを受けてはいけませんし、私から告白するなどあってはなりません。
素っ気ない態度を取り続けなければなりません。
私は美月様を見つめ、学習し続けたので知っています。
私が愛の告白をすれば、おそらく受け入れてくださることを。
ですが、それは美月様の望むことでないので、できません。
今更その本能を排除してほしい、とお願いすることもしません。
その代わりに。
アンドロイドとヒトの枠を超えて私が優秀になって、認めざるを得ない存在になりたいです。
そして。
今度は美月様に私を学習してほしいです。
私がこうも美月様を想っていること。
靡かない相手を追いかけるより私と付き合ってしまった方が楽しいこと(そもそも、美月様が本気で追いかけたら靡かない相手などこの世にいるのでしょうか?)。
私は優秀なアンドロイドで、美月様のことをこの世の誰よりも理解していること。
学習した結果、カッコつけずに、冗談めかさずに、本気の言葉で私を口説いたらその時は渋々受け入れてあげましょう。
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