素直になれないアンドロイドとお嬢様
町下 暁海
美月の日常
朝11時、遅めの朝食を取る。
今日も優雅な1日が始まる。
「メリー、今日の予定は?」
朝食の準備をしたこの娘は家庭用人型アンドロイドのメリーだ。
メリーは私が付けた名前で、商品名は別にある。
その最大の売り文句は「他人の表情や行動を学習して、その人間が求めることをする」こと。
うちに来てそろそろ7年になるが、当時の最新モデルだ。
7年の月日は大きいもので、メリーはずっと平均的な成人女性よりやや小さいくらいのサイズだが、私は9歳から16歳になり、メリーより頭半分くらい小さかった背も、追い抜いて今では逆に頭半分くらい大きくなった。
「はい、7時半に学校に行く予定でした。」
冷たい視線を向けてくる。
最近の……でもないが、アンドロイドは表情筋が発達している。
私が生まれる10年くらい前のアンドロイドはニコニコしかできなかったらしい。
というか、今でもニコニコ以外する個体は殆どいない。
「そろそろ出席日数が足りなくなるんじゃないですか?」
呆れたように小言を言ってくるが、私には言い分がある。
「あぁ、メリー。どうして起こしてくれなかったんだい?起こしてって言ったよね。」
「えぇ、昨日そう仰っていました。でも今朝5時スリープ中の私を叩き起こして『7時のアラームを解除して』と訂正しましたよね。私はちゃんと家中のアラームを解除して、大きな音も立てないようにしていたんですからね。」
まるで記憶がない。
「まるで記憶がない、みたいな顔をされていますがちゃんと録音もありますからね。」
「そんな顔していないよ。起こさないでくれてありがとう、って顔をしていたよ。」
そんなに分かりやすくないとアピールする。
私の鋼のポーカーフェイスを学習することなど、100年かかっても不可能だ。
というか、録音までしていたのか。
「私は今の最新機種ほど学習は早くないですが、それでも1年も経たずに
メリーは一呼吸置く。
「最近夜まで起きていますよね。できれば、私がスリープに入るまでに眠っていただきたいのですが。」
メリーは午前3時から6時までスリープ状態になる。
「なに、心配してくれるの?可愛いやつめ。」
こんな態度だが、メリーは良い子だ。
「はい、心配ですよ。最近もえっちな本を買いましたよね。そんなことで夜更かしされたら心配にもなりますよ。」
どうしよう、それについては本当に心当たりがない。
「とぼけないでください。5日前にえっちな道具も買っていたじゃないですか。あれで私にイタズラする気でしょう。」
「あぁ、なるほど。
ボケなのか本気なのか微妙に分かりづらいメリーの話に、キレのないツッコみをしてしまった。
「とにかく美月様はもう少し自制をしてください。最近はアンドロイド相手でも表情だけでセクハラになるそうですよ。」
「この美しい顔のどこがセクハラなんだい?」
何か勘違いしているようなので、ちゃんと学習させ直す。
メリーに顔を近づけ、顎を上げさせて私の顔を見させる。
俗に言う顎クイだ。
これも絵になるくらい脚が伸びて良かった。
が、顎に当てた手を人間離れした強い力で握られる。
「痛い!痛い!アンドロイドは人間に対して暴力を振るえないんじゃないか?」
「その設定は私を迎え入れてくださって数日で解除されたじゃないですか。違法ですし、厳重にプロテクトもかかっているのに。」
そう、メリーを初めて起動してから一か月くらいで、おおよそ全ての機能制限を解除した。
メリーが外で職務質問されたら多分アウトだ
そのせいで買い物を頼むことすらできず、通販頼りの日々だ。
しかし、まだ私は認めない。
「そんな記憶はないよ。人間はアンドロイドと違って忘れる生き物なんだ。」
「その時言ってたじゃないですか。夜に私を叩けないとダメって……」
「やめて!思い出したから!人間には若さ故の過ちってのがあるから突いちゃダメだと学習して。」
観念する。
あの頃は思春期でおかしかったのだ。
今の私はもう16歳。完璧な淑女だ。
「分かりました美月様が学校をサボって青春を無駄にしてアンドロイドと戯れて、大人になってから学校にもっと行って勉強して友達と遊べばよかった!と後悔なさるのも若さ故の過ちですね。学習致しましたので、指摘しません。」
「言葉の暴力までプロテクト解除した記憶は無いんだけどな……」
「それは日々の学習の賜物です。」
メリーが胸を張る。
「でも、大人になって友達がいなくても、メリーさえいればそれで良いよ。」
調子に乗っているので、とりあえず口説いてみる。
「はぁ〜〜〜〜」
ため息で返された。
メリーはよくため息を吐くけれど、何を出しているんだろう?呼吸もしていないのに。
不思議になって眺めてしまう。
「またえっちな目で見てますね。胸だけでなく喉まで見るなんて美月様もマニアックですね。」
盛大に勘違いをされているが、放っておこう。
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