第319話 再起動、貴族子女研修会
俺の最大のファインプレーは、シーノーブル研修会の研修地をルクセンのヴィレスタン領に決めた事だ。なぜならば前回のアインホルン領とは違い、その道のりは何日もかかるのである。ルクセンに書簡を送ったところ、二つ返事でオッケーが貰えたのも良かった。
て、事は?
凄いと思わない? だってその道中は各地の都市に宿泊する事になる。もちろん王都の自宅のような設備は無いし、ホテルに個人浴室があるわけも無いのだ。王室御用達のホテルに泊まるならいざ知らず、研修会で泊まるホテルは高級なものの、そこまでの設備は無いのである。
そして前回と全く違うのは、ソフィアの案で親の同行を禁じた事。各貴族、一人までの付き人を許可したのだ。新しい貴族の在り方を学ぶ研修なのだから、やれることは出来る限り自分でやるって事。そうでなければ自立した女性など生まれない、というソフィアの厳しい意見が出て、それを丸っと採用した。
しかも今回は実行委員として、ミリィやスティーリア、ヴァイオレット、アデルナ、マグノリアもついて来る。更にはマロエとアグマリナ、ルイプイやジェーバまで一緒。彼女らがいれば、貴族の子らに何かあってもすぐに対処できる。どうしても帰りたいとなったら、一人だけでも送り届ける事が出来るのである。だってマグノリアとヒッポがいるから。
まあ…残念なのは、貴族の付き人には男が含まれているという事。お偉いさんの貴族達は、自分の娘の身の安全の為に騎士などを付き人にしていた。なのでトリアングルムから送られた献上品から、鎧や騎馬戦車を付き添いの騎士に貸した。
ソフィアの親であるマルレーン公爵は、最後まで付き添いたいと駄々をこねたが、ソフィアに一括されたことでネル爺をつけて来た。
あとはこの研修団体を護衛するのに、朱の獅子を起用している。今回は一緒に遠征に出て、後にシーノーブル騎士団を作る為の視察を兼ねているのだ。今回は特別指導として、アンナとリンクシルが朱の獅子に戦闘訓練を行ったりするそうだ。まあ研修中なので、アンナもさすがに無茶はしないと思う。
出発の当日となり、俺は聖女邸のみんなと出かける準備をしてエントランスに居た。
「完璧だ…」
ソフィアが答える。
「はい…」
「いよいよだよ…。これが国を変えるんだ」
女主導の国にね。
「素晴らしいですわ。それに前回と違って、多くの貴族子女が参加してくれました」
それについては、本当にソフィアに頭が上がらない。
「ソフィアが周辺地方の貴族にも呼び掛けて、研修費は全てシーノーブルが負担すると言ったのが大きかった。結構な数の貴族子女が、周辺地域から集まってきたようだよ」
「聖女様の許可があったればこそです」
「ソフィアの考える内容はすっごく理にかなっているからね、却下する事がない」
「ありがとうございます」
そして俺達は留守番のメイド達に留守を託し、建物を出て王都広場へと出発する。
王都の広場につくと、大勢の人が集まっていて貴族の親たちが見送りに来ていた。愛娘を送り出すのにギリギリまで一緒に居るらしいのだが、なんとそこにマルレーン公爵がいない。
「お父上は?」
「来ないでと言いました」
「よかったの?」
「子離れをするべきです」
「ははは…そう」
「はい」
見渡してみると、親が来ているのは大抵が伯爵以上の貴族で、子爵や男爵の親は見当たらない。このあたりにも家庭の事情というか、身分差があるなと思ってしまう。
俺が壇上に立って言う。
「お待たせいたしました」
すると貴族子女や親たちがこちらを見た。今回は王族が参加していない。王女が参加するとなると、どうしても護衛の国家騎士団がついて来るからだ。あくまでも勉強に徹する事が、ソフィアがシーノーブルに課した課題である。
「今回はお集まりいただきありがとうございます。我がシーノーブルに御加盟いただきました貴族の皆様には、深く御礼申し上げます。そして大切な娘様をお預かりし、無事に帰す事をお約束いたします。私にはその力がありますので、どうぞご安心くださいますようお願いします。新しい貴族の在り方は、未来の国力を強めるために非常に大事な事であります。ご理解とご協力のほどよろしくお願いします」
パチパチパチパチパチ!
そしてソフィアが代わる。
「シーノーブル理事の、ソフィア・レーナ・マルレーンです。このような小娘が代表を務める組織で、何ができるとお思いになる方もいらっしゃるでしょう。ですがここにいる全ての人は、こちらにいらっしゃる聖女様の偉業を御存じのはずです。そして私はその偉業をこの目で直に見ました。天にも届くような恐ろしい邪神を自らの力で滅ぼしたのです。その聖女様が言いました。この国の女性がもっと強くなれば、あのような邪神に好き勝手させる事は無いと。ひとつひとつの力は弱く何も出来ないかもしれない、ですがここに集まった人達の力が合わされば凄まじい力を発揮するのです。その為には自立をする必要があります。シーノーブルではその能力を高め合い、学び取る事を心情としております。研修で学び、自信をつけ、そして絆を深め合う事といたしましょう! 長い研修となりますが、王都に帰ってくるまで力を合わせて頑張りましょう!」
ソフィアの演説が終わると、めっちゃくちゃ盛大な拍手が起きた。
やっぱソフィアは凄いや。俺の時の拍手よりもデカいし求心力があるのが分かる。
親達と別れの挨拶をして、貴族子女達が相乗りで馬車に乗り込んだ。馬車の乗り合わせも、拠点につくたびに交代する事になっていた。
そしてソフィアがネル爺に言う。
「ヴィレスタンまでの先導をお願いね」
「承知しておりますのじゃ!」
馬を駆ってネル爺が先頭に走って行った。
市民達がシーノーブルの旅団に手を降り、貴族の娘達がそれに手を振り返している。こういう事は聖女である俺か、王族で無ければ体験する事は無い。だがシーノーブルに関しては、市民も非常に興味を示しているので手を振ってくれているのだ。これも全てソフィアの広報活動が生み出した結果である。
「確かに、これも勉強になりそうだね」
「はい。演出にすぎませんが、自分達が選ばれた人間であるという意識づけになります。ただ単に旅行に行くのではなく、自分達が市民らに期待されていると思わせるのは非常に大切な事です」
マジで凄い…。ソフィアってなんでこんなに聡明なんだろう。
「そこまで考えてるなんて凄いなあ…」
「全ては聖女様の為に。これからの事は、国の未来の…いえ世界の道しるべとなるはずです」
「そうだね」
そのやり取りをマロエとアグマリナが見て、ウンウンと頷いていた。
そうして貴族子女研修の第一日目が始まったのである。
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