第314話 究極クライマックスとおっぱい空振り

 さあ、私の可愛いソフィア。そろそろ夢のお時間だよ。おいで。


 ああ…そんな事になったらいいなあ。


 最高ならお風呂でソフィアの全裸、最低でもお風呂でソフィアのおっぱい。この時をずーーーーーと待っていた。だがまだ気が早い。今はステーキを食べながらワインを飲んでいる。


「美味しいですわ」


「でっしょぉ!」


 めっちゃ高いワインに、美味しいお肉で皆が上機嫌だ。夜食は楽しんでもらおうと思って、聖女邸のみんなも参加させている。ワイワイと楽しい雰囲気に、ソフィアもご満悦のようで堅苦しさが抜けていた。


 よしよし。


 しかもワインが入った事でほろ酔い。この高揚した気分と和気あいあいとした雰囲気。


 ソフィアは完全にガードを下げている。もう今日しかないのだ。親父を追い返してまでつかんだこのチャンス逃すものか!


 皆が楽しく飯を食っている時、俺がマグノリアに目配せをする。するとマグノリアはそそくさと部屋を出て行った。それを確認しつつ、俺はソフィアとマロエとアグマリナの接待をした。


 もう三人とも、ほんっとに楽しそうで、これ以上の笑顔は無いだろう。


「このような美味しい料理は初めてです」


「それはよかった」


 実は…俺は聖女権力をフルに行使し、王家御用達のレストラン『ルークス・デ・ヒストランゼ』のシェフと従業員を全員入れたのだ。店は休ませて、一日貸し切りで店の人を全員連れて来た。男子禁制なんて関係ねえのですよ。


 美味いに決まってる。


「さあ。飲んで」


「はい」


 かわいいなあ。ソフィア、ほっぺを赤くしてほろ酔い。


 そんな時、窓をノックされる。


「あれ、なにかな?」


 俺がスッと窓際に行き、カーテンを開けた。


「あ。お迎えだ。ソフィア、マロエ、アグマリナちょっと出かけようか」


「「「出かける? これから?」」」


「庭にどうぞ」


 みんなを連れて外に出ると、バッチリと魔法使いの格好をしたシーファーレンが立っていた。


「これは賢者様」


「お迎えにあがりましたわ」


 そうして俺達が庭に出ると、シーファーレンが杖からぽんぽんと明かりを出して、それがふわふわと舞っていた。


「さあ、ついて来てくださいまし」


 その光について行くと、光で装飾された馬車が見えて来る。それはヒッポに繋がっており、ヒッポにはふわふわの毛皮が巻かれている。可愛らしい風貌になっていて、とても魔獣には見えない。


「では。夜の旅にご案内差し上げますわ」


 これが目玉だよ! クライマックスだ! 


 そう。俺は夜間飛行のアトラクションを用意していたのである。シーファーレンに頼んで最高の演出をしてもらった。ヒッポの上には仮想したマグノリアが座っており、なんと背中には羽が生えている。


 ソフィアが言う。


「か…可愛らしい…」

「素敵」

「夢のよう」


 するとシーファーレンが魔法で馬車の扉を開けた。


「さあ。夢の世界へどうぞ」


 俺達が乗り込むと、シーファーレンも案内役として乗り込んだ。


「では。旅立ちますわ」


 ヒッポが走り出して、フワリと馬車が浮かび上がる。カーテンが締まっているので、外がどんな様子になっているか分からない。


「さあ。窓の外をごらんくださいませ」


 ソフィアたちがカーテンを開くと、眼下には王都の美しい夜景が広がった。


「うわあ…」

「宝石箱…」

「綺麗…」


 でしょ? そうでしょ? 酒も入っているし、めっちゃいいでしょ?


 振動もなくフワリと飛ぶ馬車が静かにおりていく。


「あちらが王城ですわ」


「「「わあ…」」」


 王城の周りをくるりと回って、次の場所に飛び去っていく。する今度は教会が見えて来た。


「さあ…次は大聖堂ですわ」


 王都の名所を次々に案内し、ソフィアたちは完全に夢見心地になっていた。


 どう? 流石にもう帰りたくないでしょ? もうイチコロでしょ?


 俺はワザとソフィアの隣りに詰めるように座ってこっそり言う。


「どうかな?」


「素敵です…こんな…夢みたい」


 暗い馬車の中でそっとソフィアの手を握り、小さな声で囁いた。


「ソフィアの為に用意したんだよ」


「はい…」


 トロンとしてる。いつものキツメの顔じゃない。やっとあの続きが来た。


 そのタイミングで、シーファーレンが外に杖を出して魔法を発動する。


 パパパパパパン! パパパパパパ!


 火魔法で火花を散らし花火のような演出。皆の瞳にそれが映っている。


「「「キレイ…」」」


 もらった。


 そうして空のナイトクルーズが終わり、再び聖女邸に静かにおりて来る。三人とも興奮冷めやらぬ雰囲気で、うっとりした表情をしていた。


 馬車を下りてソフィアに言う。


「じゃあ。これから皆でお風呂にでも…」


 するとミリィが血相を変えて駆け寄って来た。


「聖女様! せいじょさまぁ!」


「な、なに? どうしたの?」


「それが…」


 門の所に…マルレーン公爵が立ってお辞儀をしていた。


「へっ? なんで?」


「帰りが遅いので、心配になって迎えに来たようです」


「うっそ」


 俺がマルレーン公爵に近づいて行くと、声をかけて来た。


「このような夜更けまで申し訳ございません! なかなか帰ってこないので、ご迷惑でもおかけしているんじゃないかと馳せ参じました」


 馳せ参じるなよ…。おやじ…。


「申し訳ございません。いろいろと楽しく話が盛り上がりましてね、迷惑などかかっておりませんよ」


「そうですか! それは良かった。ずっと苦しい思いをしておりましたのでな、羽目を外してしまっているのではと心配になったのです」


 するとソフィアが走り寄って来る。


「お、お父様! どうして?」


「いや…お前が迷惑などをかけていないかと心配でね」


「私は…」


「かけてませんよ。ソフィアお嬢様は慎ましい方です」


「そうですか。ではそろそろ夜も遅いのでね、ソフィアお暇させてもらいなさい。今日楽しまさせていただいたお礼は、後日いたしますので」


 仕方ねえな…。おやじに嫌われるわけにもイカン。


「そうですね。ソフィア。そろそろいいお時間、続きはまたの機会にいたしましょう。本日は楽しんでもらえたかな?」


「とっても! とっても楽しかったです! 夢のようでしたわ!」


「よかった」


 俺はこれ以上ないくらいの、美しい…それは美しい微笑みを返す。


 するとソフィアとマルレーン公爵だけでなく、周りにいたシーファーレンやマロエやアグマリナ、ミリィまでポーッとしている。


 な、なんで? なんか…最近変なんだよなあ俺…。


「ではマルレーン公爵。ソフィアをお返しいたします」


「はっ! はい。それではまたの機会に」


 ソフィアも深々と礼をして出て行ってしまった。


 見送った後で、俺は仕方なくみんなを連れて屋敷へ戻る。


「聖女様…」


「ああ、アデルナ」


「お風呂のご準備をしていたのでございますが…」


「いいじゃない。それじゃあせっかくだからみんなで入りましょう」


「「「「「「「はい」」」」」」」


 皆が笑顔になる。


 残念ながらソフィアは帰っちゃった。最高でもソフィアのおっぱい…最低でもソフィアのおっぱいだったのに。空振ったよ。


 その反動で俺は皆の裸を目に焼き付け、悶々としながら寝室に戻り、枕をギューッと噛む。


 ぐやじい! もうちょっとだったのに! もうちょっとでソフィアのおっぱいだったのに!


 その夜。俺はめっちゃ悶々とした夢を見たのだった。

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