第295話 邪神ネメシスとの直接対決
森の奥から不穏な気配が近づいて来る。森の木々が倒れ鳥たちが逃げ惑い、ネメシスは真っすぐに俺達を目指して進んでいるようだ。隠れているつもりだが、俺がここにいる限りは奴は真っすぐに向かって来るのだろう。
「恐らく私の気配を辿っているんだ。だから私がオトリになる。どこまでできるか分からないけど、やるだけやってみるしかない。アンナとリンクシルとネル爺はこっちに来て」
俺の前に三人がやって来たので、しっかりと身体強化をかけた。次々に体が光り輝き、最大の強化魔法まできっちりとかけてやるとネル爺が言う。
「ま、まるで若返ったようですな!」
「だからと言って無理は禁物。アンナとリンクシルもね」
「聖女も」
そしてシーファーレンが言った。
「私の魔法がどれだけ効くか分からないですが、とにかく足止めできるようにやってみます」
「危なくなったらすぐ逃げて」
「わかりました」
クラティナも小瓶を出して見せる。
「これは痺れ薬と目くらましです。これも効くか分かりませんがやってみます」
「わかった。じゃあマグノリアがヒッポにクラティナを乗せてそれを試して」
「はい」
そしてマグノリアが言う。
「ゼリスが森の動物たちを使役して、あれの意識を逸らしましょう」
「そうか。ゼリスできる?」
「やります!」
俺と仲間達がどうやってネメシスを仕留めるかを話していると、マルレーン公爵が言った。
「せめて剣があれば、私もお役に立てそうなのですが」
「いえ。公爵様に何かあったらソフィアが悲しみます。とにかく距離を置いて、身を守る事に徹してください」
「わかりました。足を引っ張らぬようにします。ですが一つだけよろしいですかな」
「なんでしょう?」
「この子には不思議な力があります。それを役立てる事は出来ませんでしょうかな」
俺はソフィアに聞く。
「不思議な力?」
「お父様! こんな時に!」
「このような時だからだ」
俺はもう一度ソフィアに尋ねる。
「言ってみて」
「な、なんともうしますか、本当に危機が迫った時だけと言いますか…」
「教えて」
「先が見えるんです」
「先?」
「限定された未来が見えると申しますか…。その力のおかげで、私は父母を連れて逃げる事が出来ました。ただ、邪神はその先をいっているようです」
なんだそりゃ? ソフィアが未来予知できる? そんなすごい力を持っているなんて知らんかった。
「シーファーレンはその力を知ってる?」
「あの…えっと…まさかですが」
「何?」
「それは、ご神託かもしれません」
「神託?」
「はい。ですが…御神託は聖女様のお力…」
どゆこと? 俺が聖女だろ?
「ソフィアはいつから?」
俺がソフィアに聞くと、ソフィアが答える。
「幼少の頃から、見知らぬ声が聞こえました…」
まじ? 俺は聞こえた事無いぞ。つうことは…。
「来ました!」
考えている暇など無く、俺達の目にネメシスの姿が見えて来た。禍々しい雰囲気はさらに強まり、俺達を睨む目はさらに赤く燃えるようだった。
「やるよ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
マグノリアとクラティナがヒッポに乗って飛び立つ。アンナとリンクシル、ネル爺が剣を構えて足元に斬りかかって行った。シーファーレンは長々と魔法詠唱しており、ゼリスが集中して動物を使役している。俺はソフィアとマルレーン公爵夫妻を囲むように、聖結界を張りネメシスをおびき寄せるように後ろに下がる。やはり俺についてきてるようだ。
「くる!」
ネメシスは俺達に向かって黒い玉を飛ばしてくる。だが聖結界にぶつかると、途端に霧散して消え去った。
いつもより結界が強い?
その時ネメシスの頭上に、沢山の小鳥が群がりその侵攻を邪魔し始める。ゼリスが使役する鳥たちが、仕事を始めたようだ。ネメシスはそれを振り払うように腕を振るが、小鳥の大群はそこを離れなかった。
「止まった?」
だが次の瞬間、ネメシスの顔の周りに、ぶわっ! と黒霧が膨れ上がり。それが消えると小鳥たちも消え去っていた。
だが、その視界が晴れた所に、頭上のヒッポからクラティナが何かを落とした。それは何かの玉のようだったが、ネメシスの頭にあたる瞬間にバッ! と広がる。真白な煙のようなものが頭にまとわりつき、一瞬ネメシスが動きを止めた。
どうやら、クラティナの薬は効果を発揮したらしい。しかし直ぐにネメシスは、その白い煙を顔から引きはがしている。しかしそこに、クラティナが再び目くらましを落とした。
「やったかな?」
突如その白い煙の中から、光線のようなものが出て来て、ヒッポの羽を射抜いてしまった。ヒッポはバランスを崩しながら、森の向こうへと落ちて行ってしまう。
「マグノリア! クラティナ!」
足元ではアンナとリンクシルと、ネル爺がまとわりついているが、大きな傷をつける事が出来ないでいた。
そこにシーファーレンが叫ぶ。
「退避!」
アンナ達がバッとその場を離れ、シーファーレンが何かの魔法を発動した。するとシーファーレンを中心に、大きくて立体的な魔法陣が出来上がり、光の波動のようなものをネメシスに照射する。
するとネメシスはびたっ! と足を止め、ぐらりと傾いた。
「右足を斬ってください!」
シーファーレンの指示の元、アンナとリンクシルとネル爺が右足に集中して切りかかる。弱ったネメシスの不意を突いたためか、アンナの斬撃が大きくネメシスの足を抉った。
バランスを崩したネメシスが、そのまま右に向かって倒れていく。
ズッズゥゥゥゥン!
「倒した! ソフィアたちはここに! 私がトドメをさす!」
「お気をつけて!」
倒れたネメシスに一目散に近寄り、俺は魔力を練り始める。
聖魔法に全振りするしかない。
結界も金剛も身体強化も用いずに、俺はネメシスに駆け寄って特大の聖魔法をかける。
シャアアアアアアアアアアン!
あたりはまばゆい光に包まれ、ありったけの魔力を注いだ聖魔法がネメシスを包んでいく。あるだけの魔力を注いだ俺は、魔力切れでガクリと膝をついてしまうのだった。
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