第239話 潜入捜査
俺はルクセン辺境伯に対しても、嘘の情報を流す事にする。ゼリスが使役するネズミを使って、ルクセンの部屋に置手紙をし連絡をするという方法をとる事にしたのだ。もちろんルクセンを疑っている訳ではないが、敵を欺くにはまず味方から。ルクセンの口から、本当の事のようにルクスエリムに伝えてもらうのだ。
俺達、聖女邸の人間は安全の為、王都にはおらず郊外の隠れ家にいると嘘を伝えた。
「恐らく、この情報が内通者の耳に入れば、間者は周辺地域を探すはず」
その後も内通者を探るべく、俺達は都市に潜み宰相のザウガインや外務大臣のホムランを探るが、彼らからもおかしな情報は出なかったのだ。そこで俺は洗い出しをするべく、もう一度騎士達に接触する事を試みる。
「ですが、聖女様自らあそこに行かなくても」
スティーリアが止めるが、やはり一度自分の目で確かめる必要があった。
「仕方ない。騎士達のこみいった情報も欲しいし、行くしかないとおもう」
それには聖女邸の全員はおろか、賢者のシーファーレンも反対して来たのだ。
「聖女様。飲み屋と言うものをご存知ないのですか? 男達の欲望が渦巻くいかがわしい場所なのです。聖女様のような、神に近い高貴な方が入って良い場所ではないのです」
いやいや、知ってる。俺は前世でキャバクラにも行ったし、もっと違う感じの店にも行ったことがある。だからどんな感じの店かは重々承知している。
「でも、今は聖職者のミラーナ達が頑張っているのだし、一度は視察に行かないと」
するとアンナが言う。
「聖女はこうなったら聞かんぞ。心配するな、わたしも騎士の変装をしてついて行く」
「アンナさん。万が一本人と鉢合わせしたらすぐに逃げてください」
「わかっている」
実はシーファーレンの新しい魔道具には、記憶した誰かに成り済ますというチートな性能があった。前の身代わりペンダントは対象者に片方をつけてもらい、もう片方をつける事で入れ替わるのだが、この新型はある人物を記憶させそれに成りすます事が出来るのだ。今回アンナは、教会に実在する聖騎士に成りすます事になっている。
聖騎士ならば、滅多に飲み屋などに訪れないと判断したのだ。それで鉢合わせる事はないだろう。
今回の作戦は本来、ミリィとスティーリアとヴァイオレットとアデルナが行く予定だった。しかし俺はそれに対しても抵抗があり、彼女らに男が触れるのは許せないのだ。まあ、アデルナだけはそうでもないけど。そこに俺が混ざると言ったら、皆から猛反対されていたのだがアンナから助け船が出されたのだ。
「では聖女様。くれぐれも殿方に何かされそうになったら、すぐにお逃げ下さい」
「ありがとうシーファーレン。忠告は聞いておくよ」
そうして俺とミリィ、スティーリアとヴァイオレットとアデルナは、魔道具によって比較的地味な見た目の女になった。アンナだけは完全に男になり、凛々しいまゆ毛が印象的だった。
それから俺達は、バー・マドンナに向かう。街を歩いても、俺達の事を振り向く人は一人もいない。俺が歩けばいつも振り向かれていたが、誰もこちらに興味を示さないのはとてもよかった。
歩いているとミリィが言う。
「誰も振り向きませんね」
「いい感じ」
「新鮮です! オリジンと一緒に歩いているといつも視線を感じていましたから」
「注目されないっていいよね!」
「はい。安心します」
するとアデルナが冗談交じりに言った。
「私は注目された事などありませんので、その苦労は分かりませんね」
「いらない苦労だよ」
「ふふっ」
そんな話をしつつ、地味娘一行はバー・マドンナに到着した。俺達が店に入り、ミリィがミラーナに手紙をスッと差し出す。ミラーナがそれを見てコクリと頷いた。
「今日はこの人達も働く事になってるわ。皆さんも仲良くしてください」
「「「「はい」」」」
既に通達はされているのだろう。特に驚いた様子もなく、俺達は店に入り込むことが出来た。そしてミラーナが俺達に言う。
「店が開くのは夕方からです。後二時間ほどありますので、ゆっくりなさってください」
だがスティーリアが首を振って言った。
「いえ。接客の方法を教えてください」
「はい。わかりました」
それから俺達五人は飲み屋の接客を学ぶ。皆の配置も決まり、とうとう開店時間となった。店を開くと同時に一人の客が入ってくる。
聖騎士に化けたアンナだった。
俺がそそそと近寄る。
ちょっと早かったかも。
え、出直すか?
いい。もうすぐ客が来るだろうから、座ってれば。
そうしよう。
俺とアンナがこそこそ話をし、そのまま席に座って待っていると、ようやく客が入ってくるのだった。
「「「「いらっしゃいませ」」」」
ミラーナ達が言うので、俺達も慌てて言う。
「「「「いらっしゃいませ」」」」
すると三人の騎士が周りを見渡して言った。
「おっ! キレイどころがいっぱいいるなあ」
「はい、ちょっと今日は忙しくなりそうだったので、助っ人が来ているんですよ」
「いいじゃないか!」
「ぜひ楽しんで行ってください」
「わかった。とにかくここは騎士専用ってところがいい。荒くれの冒険者共がいないからな」
「冒険者と騎士様達は違いますよ」
騎士達が誘導されて席に座る。だがすぐに騎士団の一人が立ち上がって言う。
「おいおい。聖騎士がいるぞ!」
「本当だ」
そして男達は立ちあがり、聖騎士に化けたアンナに向かって行くのだった。
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