第238話 聖女諜報部隊

 シーファーレンはやはり天才としか言いようがない。彼女が開発した魔道具のおかげで、聖女邸の面々は大手を振って王都中を歩くことが出来るようになった。それどころか、マロエやアグマリナ、ダリアまでが外に出れるようになったのである。


 その事で活動の幅が広がり、やれることが一気に増えた。俺達はまるでスパイの様に、あちこちに出没し、そして消える事が出来るようになったのだ。


 そしてその中でも特質すべき新型の魔道具があった。それは前世で言うところの、小型の盗聴器のような魔道具だ。それをゼリスが使役するネズミに括り付けたところ、王宮中の会話を盗み聞きできるようになったのである。その魔道具の恩恵はそれだけではなく、なんと離れた所にいる仲間と会話が出来るようになったのだ。


 俺達がそれを使って会話する時は、コードネームを名乗った。


 俺・オリジン

 アンナ・エンド

 ファースト・ミリィ 

 セカン・スティーリア

 サード・アデルナ

 フォース・ヴァイオレット

 ファイ・リンクシル

 シクス・マグノリア

 セブン・ルイプイ

 エイト・ジェーバ

 ナイン・ゼリス


 万が一、会話を立ち聞きされた場合、身元がバレてしまう可能性があるからだ。作戦行動中は全員がコードネームを名乗るようになっている。


「オリジン」


 ミリィだった。


「ファースト、どうぞ」


「総務大臣ペールの馬車がそちらに向かいました」


「わかった。ファーストとセブンはそのまま待機」


「「はい」」


 ミリィとルイプイのコンビが、総務大臣の動きを察知したのだ。察知したと言っても、王宮の前で張っていたら動いたというだけだが。


「セカン、エイト。対象はそちらに向かっている」


「はい、捉えました」


「行先を調べて」


「はい」


 スティーリアとジェーバのコンビが追跡を開始する。するとアデルナから連絡が入った。


「こちらサード、ギルドに動き無し」


 アデルナが監視しているギルドに動きはない。


「了解。引き続き見張って」


「はい」


「じゃあ私達も行こうかエンド」


「ああ」


 全員が自由に動き回れるのは、更に高性能になった顔を変える魔道具のおかげだ。それは顔どころか、プロポーションまで変える事が出来て声も変えられると言うチートなものだった。


「こちらセカン。対象はどうやら高級呉服店に立ち寄るようです」


「了解。セカン、フォースに引き継いで」


「はい」


「フォース。潜り込んで」


「はい」


 ヴァイオレットとリンクシルが組になっており、買い物客のふりをして店に潜り込む。ヴァイオレットの特技として、離れた所からでも金額や帳簿を記憶する事が出来るからだ。リンクシルはもちろんヴァイオレットの護衛としている。しばらく経ってヴァイオレットが連絡してきた。


「こちらフォース」


「こちらオリジン」


「どうやら、対象は奥方へのプレゼントを購入しているようです」


「金額は?」


「妥当なところかと、とりわけ高額と言う事はありません」


「わかった。店を出て」


「はい」


「セカン、対象が店を出る。次の動きを追って」


「はい」


 スティーリアとジェーバが、後をつけていく。


「オリジンまもなくそちらで見えてくるかと」


「了解。引き継ぐ」


 すると俺とアンナが乗る馬の前を、馬車が通り過ぎて行った。すぐに表通りに出て、その馬車を追跡して行く。次に立ち寄ったのは、それほど高級でもないが美味しいと評判の菓子屋だった。俺達も馬を降りて、その店に入り菓子を物色するふりをする。


 ペールと執事、店員の会話を盗み聞きしていた。


「いやあ。うちの娘が好きでねえ」


「いつもありがとうございます」


「実は第一王女のビクトレナ様から教えてもらったんだよ」


「それはそれは、大変光栄でございます」


「やはり若い女性の事は若い女性に聞くと良いようだ」


「そのとおりかと」


「陛下はビクトレナ様の事を可愛がっておいででね、やはり人の親と言うのはどこも同じようなものなのだと思うのだ。陛下とて人の親、人格者ではあるが情に厚い一面もあるのだよ」


「愛深きお方であらせられるのですね」


「そう! 最近は聖女様の活躍も目覚ましく、王都は良い方向に向いて行くだろう。お前達も商売を頑張って、市民の為に良心的な商いを続けるように」


「はい! それはもう!」


 そう言ってペールは出て行った。


 俺とアンナも店を出て皆に通達する。


「作戦終了。撤収」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」


 俺はアンナに引き上げられて馬に乗る。


「まあ、これでシロとは断定できないけど」


「だが先ほどの総務大臣の話は嘘では無かった」


「そうか。なら間違いないかもね」


 そして俺達は賢者邸に戻る事にした。地道な調査ではあるが一人一人浮き彫りにする事で、何かが見えてくると思っていた。今のところ大臣の誰も尻尾を出さないが、必ず王宮に内通者はいる。


 俺達が帰ると、マグノリアが俺に話をしてきた。


「聖女様」


「なに? マグノリア」


「城では聖女様の消息がつかめず、多少の騒ぎになっているようです」


 どうやらゼリスが使役するネズミから仕入れた情報らしい。


「わかった。でも陛下あての手紙は、王宮の文官が開けるかもしれないから、ゼリスの使役する動物に直接運んでもらいたい」


「わかりました。でも、まさか王様にネズミを?」


「違う違う。そんな事をしたら、大騒ぎになってしまう。だから王宮で現在唯一信頼できる、ルクセン卿に対して手紙をだすよ」


「はい」


 そして俺はヴァイオレットが戻るのを待って、ルクセンに告げる内容を考え始めるのだった。

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