第233話 聖女チームの決起

 賢者シーファーレンも交えて話しをした結果、聖女として堂々とルクスエリムと接触するのは難しいと言う結論になった。もしかすると犯行がバレるのを恐れて、俺が襲われるかもしれないと言うのだ。確かにその通りで、もし敵がなりふり構わずに来たら襲われる可能性がある。


 俺達の話は難航し、どうすべきかを考えた結果、最終的には他人として潜入する事を選ぶ。その前に課題がいっぱい出て来て、それを解決する必要があった。


 そして俺が言う。


「私達が安全の為に聖女邸から消えたことは、書簡にしたためてロサに渡してあるから、私に成りすました朱の獅子のシャフランが騎士に渡してくれたと思う」


 そう。現在は朱の獅子の魔法使いシャフランが、常に身代わりペンダントをつけてくれている。時おりわざと、聖女が街で見かけられるようにする為だ。俺がペンダントを外せばシャフランはシャフランに戻るようになっている。そしてもう一つ、朱の獅子達との伝達手段としてゼリスが使役している梟が居た。ゼリスが梟を通して情報を見れるので、情況に合わせて変装する事が出来るのだ。


 シーファーレンが言う。


「あとは私達の誰かが、変装マスクを使って朱の獅子に接触し、ペンダントを回収しないといけません」


 するとスティーリアとアデルナが申し出た。


「私達がやりましょう」

「ギルドに出入りしている私であれば、冒険者と接触する方法はいくらでもあります」


 それに俺が言った。


「危険じゃないかな?」


「その為の変装マスクです」


「まあ、そうだね。でも充分注意するように」


「心得ております。そしてついでにギルドのビスティ嬢にも接触します」


「アデルナ。あまり無理するのは良くない」


「無理ではありません。ギルドに聖女邸調べの依頼が来ても、管轄外だと突っぱねるように依頼をします。聖女様は国家の重要機密ですので、もしギルドが動いた場合大変な事になると脅して来ねばなりません」


「確かにそれは有効そうだけど」


 するとシーファーレンが言う。


「よろしいじゃありませんか聖女様。優秀な従者様をお持ちで素晴らしいですわ」


「まあ。それは嬉しいけど、私の身代わりで怪我をされたくないから」


 するとアデルナが言う。


「伊達に聖女様の執事はやっておりません。大船に乗ったつもりでいてください」


「わかってる。まあ無理だけはしないようにね」


「はい」


 そして今度はスティーリアが言った。


「私が出る理由は、モデストス神父への接触です。完全秘密裏に接触して、あそこに勤めている聖女様が救出した子らに協力を仰ぎますわ」


「ああ。元クビディタス孤児院の孤児だった、娼館で働いて居た子と仲間達ね」


「はい。彼女らは常々、聖女様の役に立ちたがっているのです。もちろん危ない事はさせません」


「何をさせるつもり?」


「巡礼をしながらの、騎士団との接触です。もちろん公には出来ませんが、彼女らは元は娼婦でした。男の扱いには慣れておりますし、たぶらかす事も得意と言っておりましたから」


「でも、あまり派手に動かないようにね」


「分かっております。今は聖女様が動けない時ですので、私にお任せください」


「わかった」


 その話が終わった時、ミリィが俺に言った。


「私は王妃の身辺調査をいたします」


「それこそ危なくない?」


「もちろん姿を変えてとなりますが、元は王宮に居りましたので勝手がわかります。もとより私を聖女様のお付きに任命したのは、王妃にございますので何か聞きだせるかもしれません」


「くれぐれも注意してね」


 するとリンクシルが言う。


「ウチをミリィの影に潜めて連れて行ってください。命にかけてもミリィを守ります」


「それは心強い。その時はよろしくね」


「はい」


 そして今度はヴァイオレットが言った。


「恐れ入ります聖女様よろしいですか?」


「なに?」


「出来ましたらマグノリアとヒッポをお貸しいただけないでしょうか?」


「いいけど。どうするつもり」


「実家への救援を頼みます。小さな男爵家ではございますが、リヴェンデイル家は私を良くしてくださった聖女様に深い恩義を感じております。何か一大事があれば、必ず実家に言うようにと言われておりますので、どうかマグノリアとの同行をお許しください」


「わかった。お父様お母様があまり無理する事の無いようにしてね。ヴァイオレットは安全なんだから、わざわざ危険に巻き込まれる事もないし」


「ここでリヴェンデイルが力を貸さねば、一生の悔いがのこると思います」


「うん。じゃあ、マグノリア。いいかな?」


「はい!」


 そして次にマロエとアグマリナが、ミリィに言った。


「不在の時の聖女様のお世話は私達に任せてください! 私達はもう貴族の娘ではないのです。ここでルイプイとジェーバからメイドのイロハを学びます」

「そう、マロエの言うとおり。私達はここで聖女様を支えます」


「お二人ともよろしくお願いいたします」


「「はい!」」


 そしてアンナが言う。


「聖女。来たる決戦に備えて、連携や戦闘のフォーメーションをの修練をしておこう」


「そうだね。私達だけ何もしない訳に行かないもんね」


 するとシーファーレンが言う。


「別棟に地下訓練場が御座いますわ。魔法の練習に使われるところですけど、よろしければ私も一緒にさせていただければ嬉しいかと」


「シーファーレン…」


「私も何もしない訳には参りませんから」


「わかった。よろしくお願いします」


 皆のやる事が決まった。そこにシルビエンテが、料理と飲み物を運んで来る。


「賢者様。皆様の腹ごしらえの準備が整ってございます。聖女邸のメイドの皆さまが手伝ってくださいました」


 シルビエンテの後ろに、うちのメイド達が並んだ。


「みんな…ありがとうね」


「いえ。私達も何かのお役に立ちたいのです! 何卒ご指示を頂けますようお願いします」


「まあ、その時が来たらね。まずはここでじっくり準備をしましょう」


「「「「「はい!」」」」」


 俺達は一致団結し、獅子身中の虫たる王宮の裏切者を突き止めるために動き始める。かなりヤバい仕事だと思うが、俺とアンナだけでは到底クリア不可能な作戦だ。俺達は出来上がった料理を囲んで、これからの計画の成功を皆で祈るのだった。

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