第231話 襲撃の後で
館内の間者を制圧してすぐ、俺は屋敷外の第一騎士団の様子を見に行く事にする。外に駆けつけると数名の騎士が倒れているようだ。すぐに駆けつけ、回復魔法をかけるが手遅れな者もいた。
生き残った騎士が謝る。
「聖女様…申し訳ございません。進入を許してしまいました」
「間者は制圧しました。聖女邸の者に被害は出ていませんよ」
「そうですか! それは良かった」
「増援はいつ来ます?」
「貴族の検めが終わり次第合流するか思われます」
「それまで、騎士団は聖女邸の敷地に入りなさい」
「しかし!」
「弓矢の標的になるかもしれません」
「わかりました」
仕方がないので、ボロボロになった第一騎士団の男らを敷地にいれた。死んでしまった者は荷馬車に乗せて幌をかぶせる。そして俺は騎士に言う。
「間者は捕らえて地下室に、増援が来たら連行してください」
「かしこまりました」
念のため俺達と、朱の獅子が次の襲撃に備える。しかしかなりの人数を倒したので、これ以上の襲撃は無いだろうと踏んでいる。
「間者を見にいきましょう」
「は!」
騎士を一人連れて、聖女邸に入り地下に降りると間者は静かになっていた。
「なにか様子がおかしい」
俺の言葉に、アンナと朱の獅子達が間者を調べる。
「死んでいる」
「こっちもダメです」
「こっちも」
「えっ、なんで?」
すると朱の獅子の後衛のイドラゲアが言った。
「毒です。顔に毒の症状が浮かんでます」
「うそ」
「全滅です」
これでどこの者か分からなくなってしまった。死体を騎士団に運んでもらって、みぐるみはいでもらうしかないだろうが、恐らく証拠は出てこないだろう。
俺が騎士に謝る。
「すみません」
「いえ。王城に侵入した間者もそうでした。口内に毒を含んでいたものと思われます」
「そう…」
するとアンナがピクリとする。
「誰か来たぞ」
「敵?」
「動きはそうではない」
俺達が一階に上がると、玄関にはマイオールが立っていた。どうやら貴族のガサ入れが終わって、ここに合流して来たのだろう。俺は事の顛末をマイオールに伝える。するとマイオールが平謝りする。
「申し訳ございませんでした。第一騎士団の力が足らずに、進入を許してしまったようです」
「仕方ないでしょう。それよりも、本日貴族の検めがあると知っている者の犯行です。確実に本日第一騎士団が動く事を知っていた人物がおります。内通者の可能性も考慮して捜査すべきです」
「内通者ですか…」
「あと地下に間者の骸が大量にあるのです。騎士団で運び出していただけません?」
「もちろんです! おい!」
増援に来た騎士団がぞろぞろとやってきて、間者の死体を運び出して行った。全て運び出したところで、俺は浄化魔法を発動させる。地下が光り輝いて、そこに留まっていた魂が全て消えて行った。俺とアンナが一階に戻ると、既に陽が昇り朝になっている。朱の獅子達も床に座り込んで休んでいた。
「みんなご苦労様」
「いえ」
「報酬はきちんとお支払いします。ギルドにて手続きをして受け取ってください」
「わかりました」
朝日に照らされるエントランスで、ロサがアンナに言った。
「姉さんごめんね」
「どうした?」
「見直した。こんな重要な仕事をしてたなんて、ただの引きこもりになっちゃったと思ってたからさ」
「わたしは聖女の剣として誓いを立てた。もうあの頃のわたしじゃない」
「凄く分かったよ。そして聖女様もありがとうございます」
「なに?」
「あの強化魔法のおかげで、仲間が一人も欠けずに切り抜けられました。あと、姉さんを変えてくれてありがとうございます」
「アンナは変わってないよ。ただ戦う理由を無くしていただけ。今は私を死なせないという誓いを立てているからね、アンナのおかげで、私はいろんな死線を潜り抜けて来られた」
すると朱の獅子達がニッコリ笑って頭を下げた。
「これからも、アンナさんをよろしくおねがいします!」
「こちらこそ」
俺達が手を合わせているところに、来客が訪れる。
「たのもー!」
玄関に行くと、ルクセン辺境伯が立っていた。
「これはルクセン様」
「大変じゃったの! 襲撃を受けたとか!」
「そうです。警護が手薄な所を狙われました」
「なるほどの…内部事情を知っておる奴がいるようじゃな」
「そのようです」
俺はルクセンを応接間へと連れて行く。
「すみません。メイドも使用人も不在でして、お茶を煎れるものがおりません」
「かまわんよ」
「そして、ウェステートをお招きするなどと言っておき、このような状況になり申し訳ありません」
「それも成りゆきじゃ、致し方のない事だと分かっておる」
ルクセンが難しい顔をしたので、何かを話そうとしていると分かった。
「ごめんね。アンナ以外は席を外してくれる?」
「「「「はい」」」」
リンクシルと朱の獅子のメンバーが出て行った。そして俺はルクセンに改めて聞く。
「何かお話しになりたい事があるようですが?」
「うむ。まだ推測の域を出んのじゃが」
「はい」
「恐らく内通者は王宮におる」
「えっ!」
衝撃だった。獅子身中の虫とはこの事を言う。
「誰です?」
「まだわからんが目星はつけておる」
「聞けないお方でしょうか?」
するとルクセンが頭を下げて言った。
「聖女様の優秀な捜査能力を見越してお願いしたい。ルクスエリムの身辺調査を出来ぬだろうか?」
「陛下の?」
「数日王宮で過ごしているうちに、違和感に気が付いたのじゃ」
ルクセンの言葉に俺は数人の顔が浮かんでいた。
「ルクセン様は誰かを掴んでいるのですか?」
「それも含めて調べて欲しいのじゃ。わしの口からは到底言う事は出来ん」
「わかりました」
辺境伯がこのタイミングで、単独乗り込んできたのには理由がある。恐らくは、軽々しく口にできる相手では無いのだろう。新たな難題の予感に、俺は軽くため息をつくのだった。
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