第225話 教会内部の影響力を増す

 教会本部に到着次第、教皇の一声で枢機卿や手の空いている司祭が全て集められた。大広間に集まり、壇上に教皇が座って隣に俺が座る。まず教皇の口から直々に報告されたのは、クビディタス司祭が逮捕された事だ。教会側の不祥事として、いずれ本部や他の教会も取り調べを受ける可能性を示唆する。


 皆が厳粛に受け止め、事の詳細を静かに聞いていた。その一連の話が終わって話すのは、先ほど話に上がった王都孤児学校の宿舎及び学び舎の事だった。だが先ほど現場で既に話し合いがあったので、教皇は決定事項として告げる事にしたようだ。


「異論は?」


 教皇の声に、誰もが声を上げなかった。王宮に目を付けられるかもしれないと思ったら、変な事を言うわけにはいかない。ここは従うしか選択肢が無いのである。


 しめしめ。うひひ。


 本来ならば否定的な意見も出たと思うが、状況が状況なので口を挟むことが出来ないでいる。


「それでは沈黙を持って了承したとする。次に講師の件だ。教会側からも講師を派遣する事となった。該当者の人事についてはこれからとなるが、依頼された時には快く受けてもらうようになる。それでよろしいか?」


 若干ひそひそと話し声が聞こえた。


「意見がある者は?」


 だが誰も手を上げなかった。なぜか枢機卿や司祭達の目が俺に向かっている。まあ俺が暗躍していたことは皆が暗黙の了解で知っているので、誰が糸を引いているのかが分かっているのだ。そこで俺は教皇に手を上げて発言する。


「よろしいですか?」


「いいのじゃ」


「えー。此度は王命により、この王都に孤児を育てる学校を設立する事となりました。そして皆様のご協力により、校舎及び宿舎の建設も行われることになります。これも慈善事業の一環として、基金を募る事になると思います。皆様には、より一層のご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。また先生も不足しておりますので、率先して子供に教育を施していただける方は立候補していただけるとありがたいのです」


 シーンとして俺の話を聞いている。だがこのままこいつらに全権を渡して進めてしまうと、クビディタスと同じ事が起きるといけないので釘をさす。


「そして、私は立案者と言う事もあり、王より学園理事長及び監査役の任を受けております。建設から運用まで時おり監査に入ると思いますので、その時はぜひご協力していただければと思います」


 若干ざわついた。俺が理事長というのは納得できるとしても、監査に入るとなると口うるさく言われると思ったのだろう。もちろん口うるさく言うつもりだし。そこで俺は言った。


「国の利益を考え子供達を育てる。素晴らしい事だと思いませんか? 自分らの利益より、国家の未来に投資するという考え方はとても崇高であると思います。女神フォルトゥーナを進行される皆様なら、これ以上の誉れは無いと思いでしょう。ぜひご協力のほどよろしくお願いします」


 するとパチパチと拍手がなった。よく見れば、奥に学校を任せたモデストス神父がいた。その拍手に釣られて、皆が一斉に拍手をするのだった。


「では教皇様。本日はこれで」


「それでは皆! 持ち場に戻ってよいぞ。講師に立候補したいものがあれば、投書してくれればよい。皆の協力を待っておる」


 一同が礼をして、部屋を出て行った。そして俺は教皇と枢機卿に向かって言う。


「本日はとても有意義な一日でございました。教皇様も枢機卿様方も、どうか健やかにお過ごしくださいませ」


「お手柔らかにのう…」


 そして俺はスティーリアとアンナに言った。


「では帰りましょう」


「はい」


 俺達が教皇に別れを告げて教会本部を出ると、聖騎士に囲まれた馬車が用意されていた。聖騎士達のエスコートで俺達がそれに乗り込み、聖女邸へと向けて出発する。


 いい感じだ。これで教会の権力の一端を握ったも同然、一切の私利私欲を排除して女達の為に尽力させてやろう。


 するとアンナが俺に声をかけて来る。


「聖女は…笑っているのか?」


「えっ?」


「とてもにこやかでございます」


「そう?」


 どうやら俺は笑っていたらしい。だって上手くいきすぎて笑いが出るんだもの。


「凄かったぞ」


 アンナが言うと、スティーリアも頷いて言う。何処か興奮しているようにも見える。


「素晴らしかったです! 聖女様! 子供達の為に、教会全体を動かされるなど思ってもみませんでした」


 いやいや。俺は、この世界の女達が、より良い暮らしができるように頑張ってるだけ。それ以外の邪心は何もない。まあ邪心ってのもおかしいが、とにかく男らが権力を持ち、私腹を肥やすのを徹底的に排除したいだけだ。まあ教会は身内だから比較的スムーズにいったが、これからもっと大変な貴族が待っている。今回の教会掌握はそれの予行演習のようなものだし。ずっと考えて来た一つが、ようやく花開いただけだ。


「本番はこれからだよ。あと、これは教会の馬車だから、あまり話さないようにね」


「はい」

「ああ、そうだな」


 俺達の乗る馬車が聖女邸に到着し、皆が出迎えをしてくれた。聖騎士団には挨拶をして帰ってもらう。するとミリィがニッコリ笑って話しかけて来た。


「聖女様はとてもうれしそうですね」


 気分はいい。だが本番はこれからなので、気を引き締めて行かねばならない。


「すぐにクビディタスの取り調べが始まるだろうね。そうしたら、いよいよ大きなテコ入れとなるはず。そこにむけて準備する事になるけど、力を貸してくれると助かるよ」


「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 聖女邸の全員が返事をした。そこで俺が言う。


「とりあえず今日の夕食は豪勢にしましょう。時間まではまだ余裕があるので、第一騎士団を護衛につけて食材を買いだして来て」


「「「「「はい!!!」」」」」


 皆が喜んだ。


 …だが俺は気にしてしまう。


 今日の料理やデザートが豪華になる事を喜んでいるのだろうか? それとも第一騎士団と一緒に買い物に行けるのが嬉しいのだろうか? もし後者だとしたら許せない! しかし今は非常事態の為、仕方がない。俺の嬉しいバロメーターが下がり、焼きもちバロメーターが急上昇していくのだった。 

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