第224話 孤児学校の強制運営委譲
クビディタスの教会の取り調べが終わるころ、教会本部から聖騎士団が合流してくる。彼らも一応教会側の人間なので、捜査の妨害をしないようにとの配慮だ。終わった後の教皇や俺の護衛の為に、教皇が時期を見計ってくるようにと指示していたらしい。
教会前で聖騎士団が待機しているところに、第一騎士団が出て来る。ざっと並び聖騎士団が第一騎士団に礼をしていた。聖騎士団が県警なら、第一騎士団は警視庁と言った表現が近い。
クビディタスは縄で縛られ、胴に縄を巻かれて出て来る。既に顔からは血の気が引き、死んだ魚のような目をして空を見つめていた。自業自得なので誰も同情する者はいない。
フォルティス騎士団長が教皇に言う。
「教皇様。捜査は終わりました。物的証拠はすべて回収させていただきます。取り調べでは出て来ませんでしたが、協力者などの存在が確認できましたら、総本部も取り調べの対象になるやもしれません」
「かまわんよ。もちろん捜査には協力させてもらう」
「はい! それでは聖女様。我々はこのまま騎士団の屯所に向かいます。本日は大変お疲れ様でございました。そして騎士団一同、これまでの尽力に感謝し聖女様にお礼を申し上げたいと思っております」
「いや、そんなことは」
すると第一騎士団がビシッ! と姿勢を正して割れんばかりの声で言う。
「「「「「「「聖女様の尽力に感謝いたします! ありがとうございました!」」」」」」」
やめてよ。近所の人見てるじゃない。
「皆様もお疲れ様でございました。きっとヒストリアは更に良い国となるでしょう。これからも不正に目を光らせ、市民がより良い暮らしをおくれますよう御尽力ください。皆様の日々の積み重ねが、明るい未来を生むと信じております」
「「「「「「「「は!」」」」」」」」
騎士団の挨拶が終わったところで、フォルティスが締める。
「それでは教皇様も、ご協力ありがとうございました。これにて現地での取り調べを終わります」
そう言って騎士団はクビディタスを檻に入れ、教会を去って行った。そして俺達も帰ろうかと言う時、教皇が俺に言って来る。
「まっておくれ」
「はい?」
「わしは謝りたい。聖女にも、そしてこの教会で働く修道女にも子供達にもな」
「…わかりました」
教皇が聖騎士達に言う。
「ここでまっておれ」
「「「「「「「は!」」」」」」」
そして俺と教皇と枢機卿が再び教会の中に入る。すると修道女達が慌てて教皇の所に来た。
「ど、どうなされました?」
「子らを集めて欲しい」
「は、はい」
俺とアンナとスティーリアも、教皇と枢機卿に続いて礼拝堂に入った。教皇と枢機卿がおもむろに跪き、女神フォルトゥーナの像に向かって祈りをささげ始める。そうされたら俺とスティーリアも祈るしかないので、一緒に膝をついて祈りをささげた。そこに修道女達が子供らを連れて入って来る。
「みんな集まっておくれ」
教皇は好々爺の表情で子供達を集めた。普段は何を考えているのか分からないジジイだが、やはり聖職者のトップに立つ者。慈悲深い心を持っているのだと分かる。
「みな。辛い思いをさせてしまってすまなかったのう。これまで大変な思いをしておったのじゃろう。クビディタスのやっている悪事を見抜けず、ずっと野放しにしてしまった。教会は恵まれぬ子供達のよりどころであらねばならず、このような事は許される事ではない。わしに出来る事があれば何なりと言っておくれ」
そう言って教皇も枢機卿も深々と頭を下げる。それを見た修道女達が慌てて言った。
「そんな! おやめください! 教皇様達には何の罪もございません」
「そのような事はない。もっと早くに気が付いていれば、犠牲者は少なかったはずじゃ」
「気づいていただいただけでも!」
子供達も黙ってそれを見ている。だが俺はここがポイントだと思った。これまで教会になんぼ金をばら撒いて来たと思っとんのじゃ! 買収して味方につけるために、聖女基金から結構金を流したぞ。
「それについては聖女である私にも多大な責任が御座います」
すると子供達は言う。
「聖女様は助けてくれた! 絶対に悪くない!」
「そうだよ! 聖女様がいろいろ工夫して救ってくれたんだ」
「ほくらは凄く支えられた」
「だから聖女様はそんな事言わないで!」
俺は子供達の頭をぽんぽんと撫でながら言う。
「教皇様はね、とても心を痛めていらっしゃる。だから罪滅ぼしをしたいとおっしゃっているんだ。その気持ちに皆も答えたいよね?」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
俺はくるりと教皇を向いて言う。
「どうでしょう? 私が孤児学校を開こうとしているのは御存じですよね。ですが聖女邸だけで彼らのめんどうを全て見るのは、かなり難しいと考えているのです。できましたら、教会との共同運用と言う事ではいかがでしょうか? この子達を学校の宿舎に住まわせ、その食事と勉強を教会で見てはいただけませんか? 学校の建屋と宿舎の建設を含め、先を見据えた運営をお願いします」
俺がじっと教皇を見ていると、こめかみから一筋の汗が流れるのが見えた。顔は好々爺として笑っているのだが、目元がぴくぴくしているように見える。
「一度、教会に戻り枢機卿を集めて話をせねばならん」
「そちらにお力のある枢機卿もおられる事ですし、ここは一つ子供達と約束をしていただけると、この子らも喜びますでしょう」
修道女と子供達の眼差しが真っすぐに教皇を捕らえた。そしてしばらく沈黙したのちに教皇が言う。
「分かったのじゃ。皆の住む場所は本部で面倒を見る事にしよう。これからは勉学に励むとよい」
「「「「「「やったぁ!」」」」」」
子供達が喜んでいる。そして俺が言う。
「よかったね! 流石は教皇様であらせられる! あと教会には優秀な先生がたーくさんいるからね、きっといろんなことを教えてもらえるよ! そうですよね? 教皇様」
「も、もちろんじゃ。皆は大船に乗ったつもりでおればよい!」
吹っ切れたようだ。よかったよかった。後は頼むぞ! 俺は口出しだけする事にしよう。
それから教皇は子供ら一人一人に祈りを捧げ、皆の幸せな未来を祈った。
まあ祈るだけじゃなくて、これから実行する事がいっぱいあるからよろしくな!
「では教皇様。今日の所はこのあたりでよろしいのでは?」
「うむ。それじゃあ皆元気でな!」
「教皇様ありがとうございます!」
「教皇様のおかげで僕らは勉強が出来ます!」
「おじいちゃんありがとう!」
「神様だ!」
子供達の賞賛を受けた教皇はまんざらでもなさそうだ。とりあえず、子供の前で嘘はつけまい? これからはクビディタスのような司祭を生み出さないように、せいぜい目を光らせてくれよ?
「そして俺は言う。では今お話した件、これから本部に言ってお話をいたしましょう」
「はあ…そうじゃな」
そして俺達と教皇は、教会の皆に別れを告げる。俺達が外に出ると、聖騎士達がビシっと姿勢を正した。俺達が馬車に乗り込むと、教会本部に向けて走り出すのだった。
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