第221話 真の問題
数日のうちに王城に呼び出されて登城すると、招集された人間はそれほど多くは無かった。公開裁判の前に、選ばれた人達だけで話し合いを設けたいらしい。円卓のある部屋に通され、十三名の識者が座っている。メイドや使用人も全て外に出され、俺の付き人のアンナもいない。
ルクスエリム王
ルクセン・ヴィレスタン辺境伯
ザウガイン宰相
ペール総務大臣
ホムラン外務大臣
ダルバロス元帥
ケルフェン中将
ミラシオン伯爵
アインホルン伯爵
フォルティス第一騎士団長
賢者(影武者のシルビエンテ)
教皇
聖女
の十三名。
この国の中枢をになう、重鎮達と軍部、関係識者と王に近い伯爵、教会と賢者。
そしてルクスエリムが最初の挨拶をする。皆が立ち上がり王に向かって忠誠を誓う礼をした。
「此度の件、みな良くやってくれておるようだな。今日集まってもらったのは言うまでもなく、これからのヒストリア王国の行く末を決める重大な会議じゃ。既に腹が決まっている者もいるかとは思うが、忌憚なき意見をいってくれ」
「「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」」」
「まずは座ってくれ」
皆が円卓の周りの椅子に座る。そしてルクスエリムがミラシオンに対して促す。
「ミラシオンよ! 此度の顛末を報告してくれ」
「は!」
ミラシオンは西方で起きた事件と、今回捕らえた人間の名を順を追って話して言った。皆は特に意見をするでもなく、黙ってその報告を聞いている。全てを話し終わり、ミラシオンがルクスエリムに言う。
「私が見た事件の顛末は以上です。聖女様の尽力により、不正が浸透しきる前に発覚できたものと思われます」
「うむ。聖女よ、今の報告で間違っているところは無いか?」
「はい。嘘偽りなく、ミラシオン卿がお話した通りでございます。そこにおいでなさいます、ルクセン辺境伯も周知の事実となっております」
ルクスエリムが隣に座るルクセンに言う。
「そうか、ルクセン」
「間違いないですじゃ」
「うむ」
いったん円卓が静まり返った。事の重大性と国内の情勢を考えて、どう動くべきかを模索しているのだ。ここで決められた事が、公開裁判で大きく影響してくる。
「まずはよろしいでしょうか?」
宰相のザウガインが声を上げた。
「発言を許す」
「此度の話、切り分けが必要ではないかと」
「うむ」
「まずは国内で裏切り行為に加担した者の処罰と、敵国の兵士の処遇は別物となるでしょう。もちろん大きな流れでは一つなのでしょうが、事が複雑に絡みすぎております」
「その通りだ。切り離す事は出来ないが、切り分けて考えていく事が必要じゃな」
「はい」
今度はペール総務大臣が話し出す。
「よろしいでしょうか」
「うむ」
「優先順位を決める必要があると思われます。国内に関しては内紛の可能性もありますし、東スルデン神国と事をかまえるかもしれません。一気に手を付けてしまえば、国政にも多大な影響を及ぼしますでしょう」
その通りだと思う。一気に進めれば真の敵に隙入るスキが出来てしまう。するとホムラン外務大臣が言った。
「今の所、敵国からの正式な申し入れは来ておりません。それまではシラを切りとおして、隠しておくのが賢明かと存じます。騒ぐ貴族もおられるでしょうが、まずは国内を固める事が先決では?」
なるほどね。少し前までは、大臣達も浮足立っていたと思ったが、俺が西方に遠征している間に考える時間があったらしい。皆がまともな事を言いだした。
するとダルバロス元帥が言う。
「恐れ入りますが、軍部は立て直しが必要となっております。第一騎士団、第二騎士団は機能するにしても、第三騎士団は壊滅し第四騎士団は指揮系統が崩れている。第五と第六もこれからの査問次第では膿が出てくるやもしれないのです」
するとペール総務大臣が嫌味たらしくいう。
「それは軍部の怠慢が招いた事。それはそちらで勝手にやっていただきたい」
「もちろんそのつもりではありますが、立て直しにも国の金を使う事になります。それに貴族達が頭をたてに振るでしょうか?」
「ならば金を使わずにやればよい」
なんかおかしな雰囲気になって来た。確かに軍部の怠慢が招いた事であるが、金も使わず改善など出来るわけがない。ペール総務大臣も分かって言っているとは思うが、痛い所を突かれたダルバロス元帥はただ黙って腕を組み目をつぶった。
だがそこでルクセンが助け舟を出す。
「陛下。確かに軍部の規律が乱れた事ではあります。ですが、わしは思うのですじゃ。軍部にもっと優秀な人材が必要だったのではないかと、貴族など家柄優先の人事になっていたおかげで、このような事になったのではないじゃろうか」
するとペール総務大臣が言う。
「ルクセン様。お言葉ですが、それも軍部の問題では?」
「それは違うのじゃ。今回の謀反を働いた貴族も、言って見ればその弊害だったのではないかと」
「弊害?」
「わしは此度の事で娘を殺されてしもうた。王に反旗を翻そうとした貴族の策によって、家族を殺されたのじゃ。もちろん怒り心頭ではあるが、なぜこんな事になったのじゃろうと考えさせられた。そしてわかったのじゃ。これは、極端な貴族主義がもたらした事件だと」
王の下では、公爵と同等の力を持つ貴族であるルクセンの言葉は重かった。それについては誰も反論せず、腕を組んで難しい顔をするばかり。
するとザウガイン宰相が王派筆頭と呼ばれる貴族、フェアラン・アインホルン伯爵に声をかける。
「名家のアインホルンはどのようにお考えですかな?」
アインホルンは、あの近衛騎士団隊長バレンティアの生家である。フェアランはバレンティアの実の父親だ。噂では人格者だと聞いた事があるが、こう言う場で意見をするのは初めて聞くかもしれない。
「驚かれるかもしれませんが、私もルクセン様と同様の考えに行きついておりました」
「なんですと?」
「いきすぎた貴族主義のおかげで、有能な才が野に埋もれているのではないかと申しております」
ハッキリ言いやがった。だがルクスエリムは眉一つ動かさずに、それを黙って聞いている。
ここまで俺も賢者も教皇も一言も口をきいていない。また第一騎士団長のフォルテスでは、口を挟む余地すらない。
ようやく外務大臣のホムランが異を唱える。
「確かに、多少はそのような傾向もあったかもしれませんな。ですが貴族は家柄も良く教養も兼ね備えている。幼少の頃から武の訓練を施され、文武両道と言う観点から見たら、要職に着くのは当然の事ではないですかな?」
ホムランも貴族なので、自分に才能が無いと言われているようで腹が立ったのかもしれない。だが言い争っている相手も貴族、貴族と貴族が貴族の存在価値について話し合っている。
それにはザウガイン宰相も相槌をうって言う。
「ホムラン卿のおっしゃるとおりでしょう。血筋というよりも、英才教育を受けた者が優れるのは不思議な事ではない。やはり貴族が要職に就くのは当然かもしれませんな」
それを俺達が黙って聞いていると、突然ルクセンが言った。
「教会はどのようにお考えじゃろか?」
教皇が答える。
「耳障りになるかもしれませんがよろしいかな?」
「うむ」
「こちらにおられる聖女様の前で、その論争は無意味であると思われますな」
「なんですと?」
「どういうことですかな?」
大臣達が食らいついて来ると、軽く微笑みながら教皇が言う。
「聖女様は貴族の出ではありません。ですが教養もあり能力も秀でている。更に魔法にかけては天才的な才能をお持ちです。英才教育を受けた訳では無いお人が、帝国戦では鬼神の如き活躍をし、西方では誰もなせなかったほどの早さで事件を解決なされた。聖女様の能力について異論のある方はおいでですかな?」
すると円卓がシーンと静まり返る。
いやいや。やだやだ! 俺はそんな目で男連中に見られたくない! 女達にはカッコイイとは思われたいけど、おじさん連中に変な目で見られるのはいやー!
「私など、とてもとても」
俺が言うと、ルクセンが大笑いする。
「聖女様が謙虚になされたら、この場にいる誰もが何も自慢できなくなってしまうのじゃ!」
すると俺の隣に座っている、賢者の影武者シルビエンテが笑い始めた。
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ! そのとおりじゃて、あなた様のお力は国をも救う。その力は誰もが疑う余地も無い」
その言葉を聞いてルクスエリムが言った。
「それを言うのであれば、賢者であるそなたも貴族ではない。第一騎士団長のフォルテスに至っては、平民から男爵になった男。わしはフォルティスがいたからこそ、こうして生きておる!」
一見、今回の事件とは関係のない事を話しているように思うが、この国の膿にメスを入れたような話になった。反王派の処遇についての話もあるので、やはりこのまま行けば粛清の話になるだろう。
良い話ではあるのだが、マロエとアグマリナとダリアの事を考えると複雑な心境になるのだった。
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