第四章 異世界聖戦
第220話 動き出す王都
貴族の娘達を賢者邸に避難させ、俺は王宮からの連絡を待った。予定通りに西方部隊が到着するようで、昨日から王都内は慌ただしさを増している。きっと今ごろは、いなくなった貴族の娘達の事も騒ぎになっていると思うが、俺達は完全にしらをきるつもりだ。
ルイプイとジェーバがマロエとアグマリナの世話をすることは決まっていたが、アグマリナの妹ダリアのたっての希望でゼリスもそちらの屋敷に住むことになった。俺としては聖女邸から、性別男子が居なくなってホッとしている。
更に賢者邸には結界が張っているとの事で、シーファーレンの許可が無いと出入りする事が出来ない仕組みになっているんだそうだ。俺達が上空からヒッポで降りた時には、来ることが分かっていたので結界を解いていたらしい。
執務室で俺がスティーリアに言う。
「結局は、王都で一番安全な場所に避難させることが出来たって訳だ」
「そのようです」
「後は王宮からの連絡待ち。まあすぐに来るだろうけど」
「はい」
と噂をしていれば、使者が騎士団を連れて大所帯でやって来た。先に使者の馬車を受け入れる為メイドが走り、玄関を潜って王宮の使いがやって来る。そのまま応接室に使者を通して話を聞く。
「西方よりミラシオン様が戻られました! 反乱分子と敵国の兵士も連行しておるようです!」
「まあそのつもりでしたから、既にあちらでは面通ししておりますので分かってます」
「「「は!」」」
「それで、私はどのように致しましょう?」
「まずは此度の成果に対し、国から褒賞が出ます。それを受け取っていただく式典が開催されるかと思われます。犯人達はこれから王宮魔導士が尋問をしますので、真実と嘘が見極められる事でしょう。それから犯人達の罪状が決まり、敵国の兵士の件は交渉の為の第一報が送られる事と思われます」
「なるほど。事と次第によっては隣国と揉めるでしょうね」
「それは避けられないかと思われます」
「いよいよですか」
「は! そして陛下の命により第一騎士団が聖女邸周辺を警護します。それでも十分に、お気を付けくださいますよう」
「わかっております」
それから事の詳細を詰め、王宮の使者は予定の書簡を置いて帰って行った。聖女邸周辺は物々しい雰囲気となり、流石にルクスエリムでも粛清の機運を止める事は出来ないと思う。それを覚悟の上で、俺は書籍に戻り書簡をひらいた。
俺とスティーリアとヴァイオレットが書簡を見つめている。そして俺が言う。
「やっぱりセクカ伯爵の取り調べが先になってるね」
「先に膿を出してしまおうという事になるでしょう。ですが聖女様の一手によって、マロエ様とアグマリナ様そしてダリア様をお救いすることが出来ました」
「そうだね」
「あとは公爵令嬢ソフィア様。今は避暑地に避難しているかと思われますが、ここから更に慎重に動かねばなりません」
「ただ、おそらくはマルレーン公爵家に手は回らないと思う。セクカの取り調べは公開でやると思うけど、マルレーン公爵家に繋がる貴族は陛下が押さえてるはず」
「はい」
「あとは、王の伯母であるリリー様が動くかどうか。それ如何によっては、王都に血が流れるかもしれない」
「はい」
俺の話を聞いて二人が目を伏せた。万が一、内乱がはじまってしまったら、聖女邸も反乱分子の攻撃対象になってしまうからだ。敵対している反王派の数が、どれほどかによってその脅威が決まる。今の所、ギルドからの情報ではその勢力は大したことがない。また既にルクスエリムの諜報部が暗躍しているので、それでどれだけ抑えられているかで情勢が決まる。
「王都に血が流れるのは嫌だな」
俺がポツリと言う。もし内乱なんて起きたら、王都に住む美しい娘達の命が散ってしまうかもしれない。無駄な戦いで死ぬほど馬鹿らしいことは無い。
「「はい」」
「とにかく、数日は身動きが取れないと思う」
「「わかりました」」
そして俺は、ふうっと息をついた。すると二人が心配そうに俺を見つめる。
「お休みになられた方が」
「いや。大丈夫だよ、むしろいつでも動けるようにしておかないといけない。しばらく外出は彼らがついて来ると思うし」
俺が窓から外の騎士団を見る。アイツらがいるとホント休まらない。
「はあ」
と思っていたら、コンコン! と部屋のドアがノックされる。それで俺は一気に気が重くなった。
「どうぞ」
するとメイドがやってきて告げる。
「第一騎士団のマイオール様がやってまいりました」
やっぱり…ウザいやつがきた。熱血のイケメンは西方から帰ってきて、一番最初にここに来ると思っていた。そして想像通りにアイツはやって来た。
「別に用はないんだけどね」
するとメイドが焦ったような顔で言う。
「では、帰っていただきますか?」
「いやいや。聖女邸の護衛をしてもらってるんだし、そう言う訳にもいかない。行きます」
別にいちいち顔を出さなくても、黙って守ってりゃいいんだよ。わざわざくんじゃねえよ。アイツが来ると、若干聖女邸のメイド達が沸くんだよね。それが一番嫌。
俺が下に下りると、玄関口にマイオールと騎士二人が立っていた。俺がそいつらの場所に行くと、わざわざ膝をついて丁寧に挨拶してくる。俺は王族じゃねえっての。
「これはこれはマイオール卿。よくぞ戻って参られました」
別に返ってこなくてもいいけど。
「は! 聖女様の手柄を、いち早く陛下にお伝えする必要が御座いましたので、騎士達にムチをうって急がせました。騎士達も聖女様の為とあらば、何よりも最優先で動いておりました」
へー、そりゃよかったねー。
「それはそれは、本当によくやってくださいました。そのおかげで、いろいろと解明されていく事でしょう」
「は!」
それで一体何しに来た? もう帰ってくれていいよ。
さっきから聖女邸のメイド達が、チラチラとマイオールを遠目で眺めている。コイツめ! 俺のメイド達に色目を使ってるんじゃあるまいな! クソが!
「ではミラシオン卿も?」
「は! すでに陛下と謁見中にございます!」
「そうですか。それは素晴らしい、それでは何卒聖女邸の護衛をよろしくお願いします。何やら王都内が慌ただしくなっているようですので」
「は! 護衛は私共にお任せください」
ちゃんと守れよ。
「無理はなさらないように」
「お心遣いありがとうございます! では!」
熱血のイケメンが颯爽と玄関を出て行った。俺の目の当たりがぴくぴくしている。久しぶりに会ったら、やっぱり暑苦しかった。それにも増して、メイド達の視線を持って行ったのが許せん。万死に値する。
公私ともに忙しくなりそうで、俺の血圧は数倍に跳ね上がったんじゃないかと思う。また男達と仕事をしなくてはならないことに、一気に憂鬱になってしまうのだった。
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