第217話 伯爵の娘達と入浴タイム
ちゃっぽん。
「はあぁぁぁぁ」
一仕事終えた後の風呂は格別だぜ。
そんな事を思いながら湯船で伸びをする。かなり手に汗握る展開だったので、緊張もしたし汗もかいた。体を流して先に湯船につかり、今は湯気の間からマロエとアグマリナの裸体をじーっと見ていた。
マロエは肉付きが良く、出るところはドカンと出ている安産体形。アグマリナは鎖骨が綺麗な、胸は小さめのスレンダーボディ。どちらも男を知らないので、まだどこか幼さが残っているようだ。
タオルを体の前面に垂らした二人が、ちゃぷっと湯船に浸かってきた。俺に気を使っているのか、こちらに近寄ってくるようすはない。なので俺の方から近づく! お湯に浸かりながらも、スススッと二人に近づいた。そんな俺にアグマリナが言う。
「聖女様と、ご一緒に入るとは思ってませんでした」
「まあ聖女邸では時間短縮の意味もあって、湯網は皆でやる事になってる。今日は気を使って私達だけだけど、いつもは全員で一気に終わらせてしまうかな」
「そうなのですね。随分合理的なお考えです」
マロエが恥ずかしそうに体を抑えながら言った。俺がどうしたの? 首をかしげるとマロエが言う。
「私は聖女様のような美しい体形でも、アグマリナのようにスマートでもないから恥ずかしい」
いやいや! なにいってんの? いっちばん抱き心地の良さそうな体をしてますけど!
「あら? そんな事は無いと思う」
するとアグマリナが言う。
「そうですよマロエ。それを言うなら私は聖女様やマロエのような胸が欲しい」
「胸?」
「そう」
「いやー。アグマリナも凄く綺麗だし、どちらも世の男から見れば理想的だと思う」
すると、俺の言葉を聞いたマロエが顔を曇らす。
「どうしたの?」
「少し不遜に思われるかもしれませんが、殿方は高飛車な方が多いと思います」
「そう?」
それを聞いたアグマリナが言う。
「もし聖女様がそれをお感じにならないのでしたら、それは聖女様のお立場のおかげだと思います。誰も聖女様には逆らったり、嫌味を言うような事は無いでしょうから」
確かにそうかもしれない。男どもは俺にかしずくような行動をとる事が多い。だがマロエとアグマリナが言っている事も十分承知している。
「でしょうね。この国の男は、権力を振りかざして好き勝手する人が多いかもしれない」
するとマロエとアグマリナが目を見合わせて言う。
「聖女様もそう思われますか! 聖女様はそう言った事をおっしゃらないと思っておりました」
「そうです! もしかしたら怒られるんじゃないかと思っておりました」
「怒るわけがない。前に参加してもらった勉強会を覚えてる?」
「「はい」」
「あれは女性の立場を上げるための、最初の一歩のはずだった。いろいろと横やりが入って、中止になったけど。私は男と女が対等な社会を目指してるから」
それを聞いたマロエがうるんだ目で言う。
「聖女様は、実現可能だと思われているのですか?」
「もちろん。不可能だと思っていたらやってないし、絶対実現させると思ってる」
「凄い…」
二人がタオルで体を隠すのも忘れ、俺との話に釘付けになっている。俺はついつい、目をちらちらとやりながらも続けて話す。
「こんな事を言うと、私を嫌いになるかもしれないけど聞いてね?」
「「はい」」
「私の聖女としての活動が、今回の騒動の引鉄になったみたい。女性の地位を上げたい私と、それに抵抗するもの達の間に亀裂が入ったんだ。私がそれを成し遂げてしまう事で、自分の利益や楽しみが奪われる連中がいるって事」
するとマロエもアグマリナも俯く。
「すみません。私の父や兄がそうです」
「うちもです」
「そのようだね。そして最初、彼らは私の命を狙った行動を起こしたみたいで、全てがことごとく失敗に終わった。だから今度は、その失敗の矛先が王家に向かってしまったってわけ」
「「……」」
「ごめんね。二人を窮地に追いやったのは、むしろ私」
すると二人が首を振る。もちろんマロエはOPも揺れた。そしてマロエが言う。
「いいえ。確かに家族との別れは辛いものでしたが、私達は安心もしているのです」
「安心?」
「どこかの有力貴族のお爺さんと結婚せずに済むからです」
「私もマロエと同じです。好きな人と添い遂げる事も出来ずに、ただどこかの知らないおじさんと結婚するなんて。もちろんこれで好きな人と結婚する夢も潰えてしまいましたが、それでも嫌いな人と結婚して子供を産むなんて無理です」
そう言えば彼女らは女子会で、近衛騎士団長のバレンティアや第一騎士団のマイオールの話で盛り上がってたっけな。敵わぬ夢と知りながら、あの場で夢を語り淡い期待を抱いてイケメンの騎士達を見つめていたのだ。王女のビクトレナに近づけば、そう言う人達と知り合う事も出来ると思っていたのだろう。
でもあんなカッコつけの連中と付き合ったって、なーんも面白い事は無い。バレンティアは俺にだけデレを見せてくるし、マイオールは明らかに好意のある目で見て来る。アイツらは地位のある俺に対して、いやらしい目を向けて来るのだ。
考えるだけでおぞましい。出来る事ならソフィアにそういう目で見られたい。だからそんな男に憧れても仕方がないと思う。
「この国の男は少なからず女を下に見てる。だけど私が考える未来はそうじゃない、女が自立して自分で生きていける世界。嫌いなおじさんに嫁ぐ人生など無い世界にしたい」
二人はいつの間にか、俺にくっつかんばかりに近づいていた。俺はスッと二人の手を取る。
「今は我慢の時。父上やお兄様がたの事は残念だけど、私を信じて大人しく隠れてもらうしかないかな」
「ついて行きます」
「何処までも」
どうやら二人の気持ちにゆとりが出て来たらしい。風呂で体も温まっているので、悲壮感も少しは収まって来たようだ。とにかくこれから落ち込むのは確実なので、彼女らには出来るだけ夢を見てもらわねばならない。
「信じてくれてありがとう。少し不便をかけるけどヨロシクね」
「「はい」」
それからも話して聞かせ、二人の心に火が灯ってきたところで言う。
「お風呂から上がったら身支度を整えて、用意した隠れ家に向かう事になってる。ヘトヘトだと思うけど、もう少し頑張って」
「「はい」」
俺達は風呂を上がり、身支度を整えるために彼女らを来客用の寝室へと連れて行く。そこにはミリィやメイド達が集まっており、マロエとアグマリナの身支度を始める。髪の水分をふき取り、髪をまとめ上げメイド服を着せた。
そしてミリィが二つの皮のボストンバッグを開けて説明する。
「こちらには、お二人にあった寸法のドレスや下着が入っております。また化粧道具と香水なども、王室御用達の物と流行りの物を入れてあります。しばらくはこれで生活をしていただきます」
「「ありがとうございます」」
「はい。そして靴はこちらからお選びください」
そこにはずらりと二人の寸法に合わせた靴が並んでいた。各自が靴を選んではくと、残りの靴をもう一つのボストンに詰め込む。
「これは?」
マロエに聞かれたので俺が答える。
「全て二人の為に用意した物。全部あげるから使ってね」
「「ありがとうございます!」」
これまで裕福に暮らして来たのに、いきなり質素になったら辛いと思ったので俺が使用人達に用意させていたのだ。ミリィが指揮を執って完璧なものをそろえてくれた。
「とりあえずメイド服で脱出します。もう少しの辛抱なので我慢して」
「「はい」」
二人の準備が出来たので、俺とミリィが一階のエントランスに連れて行く。すると皆が集まり礼をして二人を出迎えた。
そこにルイプイとジェーバが来る。それを見たマロエとアグマリナが喜んだ。
「ルイ! ジェビー!」
すると二人が深々と礼をして言う。
「これから、お嬢様達の面倒を見させていただきます。ルイプイと申します! 名前はお好きに呼んでください!」
「私はジェーバと申します! 私の事もお好きにお呼び下さい!」
マロエとアグマリナがキョトンとした顔で俺を見る。
「しばらくは彼女らと一緒に住んでもらいます。安全な場所なので問題ないし、いろんな事は彼女らに申し付ければやるから」
「本当ですか!」
「やった!」
マロエとアグマリナが喜んでいる。しばらく友達としていたので、ルイプイとジェーバなら二人が安心すると思ったのだ。二人に笑顔が戻って来たのを見て、俺は少し安心したのだった。
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